思考力をみがく(1)〜(5)
【インデクス】
思考力をみがく(1)
6色ハットで思考をレベルアップ
帽子をかぶり分ける
まずは観察から
思考力をみがく(2)
事実と意見を分ける
具体的な練習方法
事実、事実、そして事実
思考力をみがく(3)
視点を変えると景色は変わる
目の高さを変えるトレーニング
具体的にはどうすればよいか
思考力をみがく(4)
ポジティブ思考は難しい?
まずはリラックス
自分の否定癖に気づく
なんでも喜ぶゲーム
くり返し、くり返せ
思考力をみがく(5)
いよいよ提案です
安易に答えを出さない
「感情」を爆発させたり、自分勝手な理屈でなにかを
「批判」しようと思えばいくらでもできます。それら
にたいした知性は必要ありません。
しかしながら、包括的な視点で、長期的に効果のある
対応策を提言するのは難しいものです。しかも多くの
人に希望を与えるようなアイデアを出すのは並大抵で
はないでしょう。
ここではエドワード・デボノ博士が開発した「6色ハッ
ト発想法」を参考にしながら、私たちの思考力をレベ
ルアップする道筋を模索したいと思います。
帽子をかぶり分ける
デボノ博士の「6 Thinking Hats」は日本の企業でも
「6色ハット発想法」として商品企画から会議の運営
まで、幅広くビジネスに応用されているようです。
ハットは帽子のことで、発言に際して6色の帽子をか
ぶり分けます。つまり自分の述べる意見が、どういう
「視点」に立つものかを、自分自身(および相手)に
対してはっきりさせるのです。
A:事実
白色帽子をかぶるときは、客観的事実、統計、
データについて述べる。
B:感情
赤色帽子をかぶるときは、主観的意見、直感、
感情、気持ち、好き嫌いについて述べる。
C:批判
黒色帽子をかぶるときは、リスク、懸念、悲
観的意見、否定的意見、反対意見、何が失敗
しそうかについて述べる。
D:評価
黄色帽子をかぶるときは、利益、プラスとな
るもの、肯定的意見、楽観的意見、利点は何
かについて述べる。
E:提案
緑色帽子をかぶるときは、創造、提案、新し
いアイディア、代替案、クリエイティブな意
見を述べる。
F:俯瞰
青色帽子をかぶるときは、全体を見渡し、意
見の流れをコントロールし、結果をまとめる。
会議の議長役をつとめる。
実際に6色の帽子を用意してかぶり分けてもいいです
し、想像上の帽子をかぶるのでも構いません。
まずは観察から
最初にすることは他者の発言の観察です。ネット上に
は、たくさんの意見が書き込まれています。それを見
ながら、発言がA~Fのどれに該当するかを分類して
みます。
当然ながら、圧倒的に多いのは「B:感情」と「C:批
判」であることに気づきます。感情的発言や、他者へ
の批判はわりと簡単にできるので、どうしてもこれら
の発言が多くなりがちなのですね。
次に自分の発言をチェック。過去に書いたブログ、ボ
イス、twitterなどを調べて、A~Fのどれが多いか、
発言の傾向を確認します。ここでも「感情」や「批判」
が多いようなら、自分の思考のバランスがその二つに
偏っているのを知ることができます。
ここまでが第一段階、つまり「感情・批判」ステージ
です。次は第二段階の「事実・俯瞰」ステージへ進み
ます。
(つづく)
第一段階「感情・批判」ステージから第二段階の「事
実・俯瞰」ステージへ進みましょう。まずは「事実」
を語るトレーニングです。
「感情」を爆発させた発言や何かに対する「批判」は、
事実ではなくその人の意見が中心です。事実はひとつ
しかないとしても、意見は無数にあり得ます。
そこで「事実」と「意見」をきちんと区別する練習が
必要となるわけです。
このトレーニングが不十分だと、いろんなリスクにさ
らされることになります。すなわち
●軽々しく陰謀説などのデマを信用する
●特定集団の価値観だけに偏向する
●自分だけが正義という独善に陥る
●まわりの多数派の意見に迎合する
などなど。イデオロギーやカルト教義に洗脳されやす
くなるのも、事実を探求する練習が足りないことの弊
害と考えられます。
具体的な練習方法
とは言っても、事実と意見を峻別することはそんなに
簡単ではありません。また、事実を正確に事実と認定
するのも、じつはけっこう大変なことです。
ここではトレーニング方法として、参考までに三つの
手法をご紹介します。
1.裏を取る
2.考え抜く
3.観察し尽くす
「1.裏を取る」は警察やジャーナリストの手法です。なに
か情報を得たとき、それが事実かどうかの確認をするわけ
です。地味で苦労の多い作業なので、避けて通りたくなる
のが人情ですが、裏取りが不十分だと冤罪や誤報につなが
りかねません。
「2.考え抜く」のは、マイケル・サンデル教授のハーバー
ド白熱授業が参考になります。自分はなぜそれを正しいと
思うのか。その基準はなにか。なぜその基準を採用するの
か。その基準を採用しない人の基準はなにか。それについ
て先人はどう考えたか。それに対する反論はないか。など
など、柔軟かつ多角的に考え抜くのです。
「3.観察し尽くす」はメディテーションの技法です。まず
は自分の心身でなにが起きているか徹底的に観察します。
雑念が湧いたら「雑念が湧いた」という事実を観察します。
「しまった雑念が湧いた」と考えたら、「自分はいま自己
批判した」という事実を観察します。どこまでも事実、事
実、事実と観察するトレーニングです。
事実、事実、そして事実
これら一連のエクササイズを続けるうちに、それまでの自
分の発言がいかに「感情的」で「批判的」であったか(と
いう事実)に気づき始めます。
事実の確認は一生続くトレーニングです。そしてどんなに
事実確認の技術に上達しても、裏取り・思索・観察を怠れ
ば、たちまちそこから腐り始めるのです。
そして、私たちは完全なる事実を知ることはできないとい
う「認識の限界」にも気づきます。けれども、だからこそ
事実を探求する努力を続ける必要があると考えます。
さて、次回は「俯瞰」についてお話ししましょう。
(つづく)
俯瞰(ふかん)とは、高いところから全体像を見ること。
ものごとを俯瞰すると見え方がまったく変わる場合があ
ります。たとえば円錐を横から見れば三角形のシルエッ
トですけれども、真上から俯瞰すれば円となります。
アートディレクターの佐藤可士和氏は、整理を以下の三
つのステップに分けて説明します。
1.状況把握
2.視点導入
3.課題設定
その中の「視点導入」とは、「抽象度をあげる」とか
「アウトサイダーの視点を持つ」ということ、つまり
広い意味で俯瞰することだと考えることができます。
目の高さを変えるトレーニング
意見が対立したり矛盾したりしても、視点を高くする
ことで解決の糸口がつかめる場合があります。
司馬遼太郎は「竜馬がゆく」の中で、中岡慎太郎と坂
本竜馬にこんな会話をさせています。
「竜馬、言うちょくが幕府は砲煙の
なかで倒す以外にないぞ」
「しかない、というものは世にない。
人よりも一尺高くから物事をみれば、
道はつねに幾通りもある」
運動科学のトレーニング理論でも、以下のような考
察がなされています。
普通人は、時々刻々の場面場面の中に「現場(げ
んじょう)埋没的」に存在している度合いが強い
が、真に優秀な武道家、スポーツマン、舞踊家、
音楽家、画家、禅僧等々の中には、各々その現れ
方に違いはあるものの、現場に対し普通人以上の
関わりを持ちながらなお、現場を超越した(大き
い或いは深い)世界に、自己の大半を住まわせて
「平然」としている人々がいる。
それは、現場的情報とは別の何かを意識的に処理
するということを含みつつ、そうした表面的能力
を越えた、深層的・根柢的な現象である。この
「現場を超越する」深層的な鍛練が必要である。
(鍛練の理論 pp80-81)
具体的にはどうすればよいか
今回も三つの方法をご紹介しましょう。
1.視点移動
2.正解はないと考える
3.SOシフト
「1.視点移動」は、とにかくいろんな立場に身を置い
て事象を観察するということです。実際に身体を動か
してさまざまな人生経験に身を投じることができれば
理想的ですけれども、想像力をフル活用する方法もあ
ります。
「2.正解はないと考える」とは、ひとまずありとあら
ゆることを間違い(あるいは暫定的解決策)と想定す
る思考態度です。
私だけが正しい、私の属している組織だけが正しい、
うちの師匠・親分だけが正しいという独善主義は視界
をゆがめてしまいがちです。
ひとつの解決策は新たな問題を引き起こす、しょせん
すべては間違いであり、間違い方の種類が違うだけで
ある、くらいの大らかな見方を持つ。これが大局観に
つながるわけです。
「3.SOシフト」はウォーター&ブレスの専門用語で
すけれども、インナーゲームでいうセルフ2、仏教で
いう他力、運動科学でいう他者中心構造運動などに共
通する心身の状態です。
これは俯瞰(客観視)を身体と精神の両面から体験す
るための基礎トレーニングとなります。
いよいよ第三ステージへ
第一段階「感情・批判ステージ」から第二段階の「事
実・俯瞰ステージ」を経ました。
これだけでも、感情を爆発させたり他者を攻撃してば
かりいることに比べて、かなり理知的な議論が展開で
きることに気づかれるでしょう。
次回はいよいよ第三段階「評価・提案」へと進みます。
いわゆるポジティブ思考や、創造性開発の話題になり
ます。お楽しみに。
(つづく)
思考力開発の第一段階「感情・批判ステージ」から第二
段階の「事実・俯瞰ステージ」を経て、いよいよ第三段
階「評価・提案ステージ」へ入ります。
まずは「評価」、つまりものごとを肯定的にとらえ長所
を評価する能力をみがくわけです。いわゆるポジティブ
思考がこれにあたります。
最初に確認しておいたほうがよいのは、ポジティブ思考
を「善」であると決めないことです。6色ハットのうち
の1色であり、ひとつのものの見方にすぎないというく
らいの楽な気持ちで取り組むとよいでしょう。
なぜなら、ポジティブ思考は一般に考えられているほど
簡単なものではないからです。また、ポジティブで「あ
らねばならない」と義務化したとたん、それはポジティ
ブ思考とは違うものになってしまいますし。
逆説的な表現になりますけれども、「評価」を学ぶため
には、自分を評価するのをやめることから取り組みます。
ポジティブであろうという意識が強すぎると、「あ、ま
たネガティブなことを考えてしまった」と自分を責めて
ばかりになりかねませんので。
まずはリラックス
自己評価をやめるためには、まず徹底的にリラックスす
るとよいでしょう。身体をゆるめ、心を解放します。専
門的にはメディテーション(瞑想)を学ぶとよいのです
が、チャイルドタイムで呼吸法1-2-3-2-1をするだけで
もかなり効果があります。 ※専門用語は悟楽を参照
リラックス状態で、自己批判したい気持ちをおさめる習
慣を身につけつつ、次の段階へ進みます。
自分の否定癖に気づく
人間は多かれ少なかれ否定癖を持っています。いつもな
にかを批判したり、攻撃したり、不平を言ったりしよう
とする。そのようなネガティブな心の傾向です。
しかし、からなずしもそのことに気づいているとは限り
ません。自分の否定癖を克服するには四つの段階がある
といいます。
1.自分が不平を口にしているのに気づかない段階
2.自分が不平を口にしているのに気づく段階
3.意識すれば不平を口にしないですむ段階
4.無意識に不平を口にしない段階
この癖を直すための具体的なメソッドを提案している人
もいます。ウィル・ボウエンはそのひとりです。
この本は自分の言葉を変えることで人生を変えるための
テキストブックとなります。
なんでも喜ぶゲーム
リラックスし、否定癖をおさめながら、いよいよ本格的
にポジティブ思考に取り組みます。参考になるのはエレ
ナ・ポーターの名作「少女パレアナ」です。
あたしがね、お人形を欲しがったもんで、お父さん
が教会本部へ頼んでくだすったんですけどね、お人
形がこないで松葉杖がきちゃったの。係の女の人の
手紙にはね、人形がないから杖を送る、だれか杖の
いる子もあるだろうからって書いてあったのよ。そ
のときから遊びが始まったの」(中略)
「ゲームはね、なんでも喜ぶことなのよ。喜ぶこと
をなんの中からでもさがすのよ -- なんであってもな
の」(中略)
「それだからそのときすぐ -- 杖から始めたの」
(中略)「だからさ、杖を使わなくてもすむからう
れしいの。ね、わかったでしょう -- わかればとても
やさしいゲームなのよ」(中略)
「それからずうっとやってるのよ。喜ぶことをさが
しだすのがむずかしければむずかしいほどおもしろ
いわ」
くり返し、くり返せ
経営コンサルタント浅野喜起氏は言います。
けっしてクライアント企業のあら探しをしてはいけ
ない。欠点を取り除こうとしてよくなったためしは
ない。長所を伸ばすことに力を入れる。絶対に欠点
をあげつらってはならない。
「欠点は放っておいていいんですか」
「放っておきなさい」
欠点を直そうとしても直ったためしがない。
死ぬまで直らないのが欠点。それを受け入れる。
「欠点がない」のではなく、
「欠点はあるけどいい会社」になる。
凡事徹底より
人間も同様でしょう。欠点のないつまらない人になるよ
りも、欠点のある魅力的な人物になろう。これもひとつ
のポジティブ思考ですね。
リラックス、否定癖に気づく、そしてなんでも喜ぶゲー
ムと、三つの手順をご紹介しました。あとはそれを何度
もくり返すことです。
次回は「提案」について述べます。
(つづく)
エドワード・デボノ博士の「6色ハット発想法」をヒン
トに、思考力をみがくステップを昇ってきました。
第一段階:感情・批判ステージ
第二段階:事実・俯瞰ステージ
第三段階:評価・提案ステージ
です。少し復習してみましょう。
第一段階
感情
主観的意見、直感、感情、気持ち、好き嫌いについ
て述べる。
批判
リスク、懸念、悲観的意見、否定的意見、反対意見、
何が失敗しそうかについて述べる。
第二段階
事実
客観的事実、統計、データについて述べる。
俯瞰
全体を見渡し、意見の流れをコントロールし、結果
をまとめる。会議の議長役。
第三段階
評価
利益、プラスとなるもの、肯定的意見、楽観的意見、
利点は何かについて述べる。
提案
創造、提案、新しいアイディア、代替案、クリエイ
ティブな意見を述べる。
私たちの思考や発言は第一段階であることが多く、きち
んと訓練しないと第二段階や第三段階へ進みにくいこと
を考察してきました。
Twitter で裏取りもされないデマ情報が「拡散」するの
は、第二段階「事実」のトレーニングができていない人
が多いことを示しているでしょう。
特定の立場からの意見だけを他者へ強制するのは「俯瞰」
の能力が低いからかもしれません。いつも悲観的でグチ
や不平ばかりを述べるのは「評価」の練習が足りないと
言えるでしょう。
これらのステップは完璧にマスターしてからでないと先
へ進めないわけではありません。次々と先へ進みつつ、
らせん状に上達していけばよいと考えられます。
安易に答えを出さない
第三段階「提案」にはクリエイティブな思考が求められ
ます。そこでは、旧来の常識を超える必要があったり、
突拍子もない発想が求められたりします。
ところで、経済協力開発機構(OECD)が15歳を対象に
実施した学習到達度調査(PISA)の結果から、私たちの
取り組むべき課題を考えたことがあります。以下黒坂の
ブログから引用です。
ようするに日本人は「後づけの理屈はうまいけど、
仮説を描くことは苦手」ということでしょう。イマ
ジネーション(想像力)が貧しいので、「何が大事
な問題かわかっていない」ことになる。
日本の子供は「疑問を認識する能力が低い」と報じ
るメディア自身が、ランキング報道に終始し、授業
時間増加しか打つ手がないというお粗末な議論を展
開するのは、みずからの「疑問を認識する能力が低
い」ことを露呈しているのであって、低質なブラッ
クジョークを聞かされる思いですね。
必要なのは「本質を見抜く目」や「想像をふくらま
せる力」であり、そのためには「五感を磨く」こと
から始めるべきだと考えます。「KY、KY」と空気
ばかり読んでいては、なんら本質は見えてこないし、
本当の意味での空気さえも読めない。
環境問題に代表されるように、人類が直面する課題
には決まった正解などありません。豊かな想像力を
ベースにした問題認識能力、つまり本質を見る目が
なければ取り組めない種類の問題なのです。それは
くどいようですが、15歳の問題ではなく、私たち大
人の問題です。
正解のない問題に立ち向かうとき、私たちは徹底的に考
え、シミュレーションをくり返す必要があると思います。
手頃な「正義」や「信念」を持ち出せば、思考は簡単に
第一段階(感情・批判)へと陥ってしまうからです。
創造力を磨く方法は無数にありますが、現時点でのひと
つの道しるべとして、以下の三つがヒントになると考え
ています。
1.五感を磨く
2.問う力をつける
3.自分が動く世界観を身につける
どれも簡単なことではありませんが、こういう努力の地
道な積み重ねは、その結果はもとより、過程にも意味が
あると思うのですが、いかがでしょうか。
(了)
投稿者 kurosaka : 2011年11月 3日