第二十一届世界大学生運動会 中国北京国際合同バンド
2001年8月の北京ユニバーシアード大会開会式に出
演した、国際合同マーチングバンドのようすをレポ
ートする(2001.8.15〜22)。
<宣伝・宣伝・また宣伝>
北京空港に降り立った私たちを迎えたのは、あちこちに
掲示されたユニバーシアードの宣伝でした。それは、電
光掲示板であったり、ポスター、フラッグであったり、
大きな看板であったり。
空港から市内へ向かう高速道路の街灯柱にも、ずうっと
ユニバーシアードの旗がひらめいていて、北京を訪れた
すべての人をイベントムードで迎えます。
市街地に入ると、道路はもとより、オフィスビルや街頭
看板など、いたるところにユニバーシアードの宣伝。北
京は、このイベント一色に染まっているわけです。
<ユニバーシアード北京大会>
大学生のスポーツ祭典、第21回ユニバーシアード北京大
会は、167カ国・地域から6000人以上が参加。日本選手
団は320人。9月1日まで10競技168種目を争います。
中国政府にとって、今回のユニバーシアードは、あきら
かに「オリンピックの予行演習」。告知が派手なのは、
2008年の五輪を強く意識しているからでしょう。
日本の新聞では、ユニバ事務局の不手際や混乱ぶりばか
りが報道されていますが、現地の様子は、少し感じが違
います。今回は(五輪の)リハーサルなんだから、失敗
できるだけしておこう、そしてデータを蓄積して、ノウ
ハウを得よう、と前向きに考えているように見えます。
なによりも、21世紀を迎えて新しい中国に生まれ変わる
んだという、人民の希望と熱意で、とにかく、どこもか
しこも雰囲気が明るいのです。
<国際合同バンド>
今回の国際合同バンドをワールド・プロジェクトでプロ
デュースすることになったのは、いうまでもなく、昨年
9月のシドニーオリンピック開会式の実績が評価されて
のこと。また、2008年の北京オリンピックで、同様の企
画が実現できればとの思いもあります。
今回、合同バンドの中心となったのは、オーストラリア。
ほかにアメリカ、シンガポール、中国、そして日本から
メンバーが集まり、総勢700名規模の国際合同バンドを
結成しました。
練習はすべて英語で行われ、どうしても必要なところだ
け通訳を交えます。その現場は、オーストラリア英語、
シンガポール英語、アメリカ英語、中国語、そして日本
語が飛び交う、なんとも国際色豊かな光景です。
北京市内の高校グラウンドを借りての合同練習。それに
加えて、本番までに2回、開会式の行われるスタジアム
(工人体育場)でドレスリハーサルがあります。
日々、練習を重ねるにつれて、音楽を通じた国際交流の
素晴らしさが実感されます。民族も文化も違う者たちが
集い、ひとつのショウを作り上げていく苦労と感動。こ
のような興奮と歓喜は、なかなか得難い経験でしょう。
<北京 - その急速な近代化>
北京の街は猛烈な勢いで近代化しています。2008年のオ
リンピック開催が決まったので、開発はさらに加速する
ようです。
たとえば、パンダのいる北京動物園の入園料は15元(約
200円)。一方、北京海洋館という新しい水族館の入館
料は100元(約1300円)。動物園は広大な敷地ですが、
動物のケアが十分に行き届いていない。海洋館のほうは、
非常にモダンなデザインで、運営や見せ方も西洋式。動
物園がこれまでの中国、海洋館はこれからの中国を象徴
しているかのようです。
それにしても、人の多さにはあきれるばかりです。動物
園も海洋館も、あるいは市内のスーパーマーケットも、
人、人、人の群れ。高度経済成長まっただ中のこの国で
は、みんな、よく働き、よく遊び、そしてよく食べる。
まったく30数年前の日本のようではありませんか。
<エンタテイメント大国>
王朝文化が長く続いた中国では、雑技団に代表されるよ
うに、多種多様なエンタテイメントが蓄積されています。
我々も雑技団を鑑賞しましたが、たいへんに面白かった。
技術が驚嘆すべきレベルなのはいうまでもなく、ショウ
としての完成度も高く、笑いもあり、テンポも小気味良
く、とても楽しめる内容でした。
ユニバ開会式の演出も、4000年の歴史、10億以上の人民、
56もの多様な民族、そして21世紀のテクノロジーが混然
一体となって渦巻く、壮麗にして力感あふれる、見事な
ショウに仕上がっていました。
特に、古代中国の歴史を表現した「龍の誕生」とそれに
続く兵馬俑の大演舞(演武?)は絶品。スタジアムを埋
め尽くす8万人の観衆も騒然。中国の底力を見せつけら
れて、恐ろしいほどでした。
なお、式典において開幕宣言をしたのは、江沢民国家主
席。ほかに朱鎔基首相、李鵬人民代表大会委員長など、
共産党中央委員会の政治局常務委員7人すべてが、スタ
ジアムの貴賓席に並びました。中国が、ユニバーシアー
ドを「北京五輪のリハーサル」として重視していること
が、こんなところにも現れています。
<万里の長城と中華世紀壇>
国際合同バンドは、練習の合間をぬって、独自のコンサ
ートを2回行いました。
1回は、万里の長城での演奏。シンガポール、アメリカ、
オーストラリアと、国別に、それぞれが用意してきた曲
を披露。そして最後に、全体の合同演奏です。数百名の
バンドが長城に立って演奏する姿は壮観でした。長い中
国の歴史でも、初めてのことではないでしょうか。
もうひとつの演奏会は、中華世紀壇という会場。英語名
をミレニアム・モニュメントといいます。21世紀の到来
を記念して1999年暮れに完成した建物。新ミレニアムへ
のカウントダウン・イベントが行われたそうです。
また、今年7月、IOC総会で2008年のオリンピック開催地
が決定するという日にも、多くの北京市民がここに集ま
り、結果発表を待った。「2008年は北京」の報がもたら
されると、ミレニアム・モニュメント周辺の広場が祝賀
会場になったことは、いうまでもありません。
「万里の長城」と「中華世紀壇」。中国の過去と未来を
象徴する2つの場所で、国際合同バンドは演奏会を行う
ことができたわけです。
<多国籍交流イベント>
大きな歴史のうねりの中で、中国は激しく変化しようと
しています。国際化の流れもそのひとつ。
日本では、これまで、2国間交流はさかんに行われてき
ました。しかし、国際合同バンドのような多国間での協
同プロジェクトは、一般市民レベルでは、それほど実績
がないかもしれません。
音楽は国際交流の有効な手段。今後、日本でも、音楽を
通じた多国籍プロジェクトが求められるでしょう。多く
の国の人々と、ともに苦労し、音楽を作る。そういう仕
事ができたら素晴らしいなと思います。中華人民とも手
を取り合いながら。
謝謝。
ワールド・プロジェクト・ジャパン 黒坂洋介
投稿者 kurosaka : 2004年3月15日