ベイシーへの愛
学生チャンピオンバンド明治大学ビッグサウンズ・
ソサェティ・オーケストラのアメリカ公演レポート
(2001.2.12〜25)。
<超過密スケジュール>
12日間のアメリカ滞在期間中に13回の公演。ちょっとし
た売れっ子芸能人並みのスケジュールです。ダブルヘッ
ダーや3回公演の日もありました。
昨年、山野ビッグバンド・ジャズ・コンテストで最優秀
賞を獲得した明治大学ビッグサウンズ・ソサェティ・オ
ーケストラ(以下BS)の演奏は、ジャズの本場アメリカ
でどのように評価されたのか。それをこれからご報告い
たしましょう。
<13回の演奏とは>
時系列に13回の演奏を追ってみると・・・
2月13日(サンフランシスコ近郊)
1. Los Medanos College カフェテリアで演奏。
2. Pearl's Jazz Club でジャムセッション.
2月14日(サンフランシスコ近郊)
3. Concord High School で演奏。
4. Los Medanos College リサイタルホールで演奏。
2月15日(サンフランシスコ近郊)
5. UC Berkeley キャンパスで演奏。
2月16日(ロサンゼルス)
6. Irvine High School で演奏(1回目)。
7. Irvine High School で演奏(2回目)。
8. El Dorado High School で演奏。
2月19日(ロサンゼルス)
9. ディズニーランドで演奏。
2月20日(ロサンゼルス)
10.ハリウッド Capitol Records でCD録音。
2月22日(アイダホ州)
11.ライオネル・ハンプトン・ジャズ・フェスティバ
ルのコンテストで演奏。
2月23日(アイダホ州/ワシントン州)
12.LDS教会で演奏。
13.Washington State University で演奏。
通常のアマチュア楽団の演奏旅行では考えられない過密
スケジュール。でも、これは「演奏」だけを取り上げた
もので、実は、このほかにも、いろんなイベントがあっ
たのです・・・。
<ジャズ教育イベント>
上記13回の演奏に加えて、さまざまな指導者からバンド
指導や楽器指導を受けました。
1. Los Medanos College で 同校のバンドディレクター
John Maltester 氏のワークショップ受講。
2. UC Berkeley で同校のバンドディレクター Bevan
Manson 氏のワークショップ受講。
3. Fullerton College で元Bob Florence のサックス奏
者 Bruce Babad 氏のワークショップ受講。
4. Fullerton College で同校の元バンドディレクター
Jim Lihahon 氏のワークショップ受講。
5. ロサンゼルスで、元Tonight Show Band のトロンボー
ン奏者 Bruce Paulson 氏のクリニック受講。
6. ライオネル・ハンプトン・ジャズ・フェスティバルで
審査員(元Bob Mintzer のサックス奏者)のワーク
ショップ受講。
また、レコーディングには、ゲスト奏者として元Count
Basie楽団のドラム Gregg Field 氏が参加。さらに飛び
入りで、西海岸でナンバーワンのリードトランペット奏
者 George Graham 氏が1曲ソロを吹いてくれました。
日本では、体系的なジャズ教育を受ける機会が少ないた
め、これらの教育イベントは、BSのメンバーにとって、
貴重な経験になったと思います。
<ちょっと一息:ディズニー・リゾート>
この2月にオープンしたばかりのディズニーの新しいテ
ーマパーク「California Adventure」で遊ぶことも、今
回のスケジュールには盛り込まれていました。「バグズ・
ライフ」の3D映画や、カリフォルニア上空の飛行シミュ
レーションなど、かなり楽しめる内容。
また、本家 Disneyland も満喫。日本にはないアトラク
ション「Indiana Jones」が特にお薦めです。
両テーマパークの中間に位置するショッピング・ストリ
ート「Downtown Disney」は、そぞろ歩くだけでも楽し
い雰囲気。ニューオリンズ風の Ralph Brennan's Jazz
Kitchen や House of Blues などライブハウスもあるの
で、将来的にはこういう場所でも演奏をブッキングした
いと考えています。
<レコーディングについて>
ハリウッドにそびえ立つ白い円柱状のビルをご存じでし
ょうか? Capitol Records の建物です。その地下に、
Frank Sinatra らが愛用したスタジオがあります。BSは
この名門スタジオを使ってアルバムを録音しました。
先にもふれた通り、ゲストとして Gregg Field(ds)、
George Graham(tp)の両氏が参加したほか、元 Count
Basie のヴォーカリスト Dennis Warren 氏や、なんと
あの Dave Grusin 氏がふらりと遊びに現れたり、嬉し
いハプニングが次々に起きました。
ほとんどのBSメンバーにとって、スタジオでレコーディ
ングすること自体が初めての経験。最初のうちは緊張し
た様子でしたが、朝の9:30から夜の9時までかけて、予
定していた8曲すべてを無事収録できました(完成は6月
頃になります)。
<ジャズ・フェスティバルへの出場>
アメリカには、教育目的で学校が主催するジャズ・フェ
スティバルが数多く存在します。ライオネル・ハンプト
ン・ジャズ・フェスティバルも、アイダホ大学が主催す
る教育イベントで、以下3つの柱から成っています。
1. アマチュアバンド、ヴォーカルアンサンブルの
コンテスト
2. 楽器指導やバンド指導
3. メジャーアーティストによるコンサート
BSは、バンドコンテストの College Instrumental Large
Ensembles 部門に出演。アメリカの学生バンドをおさえ
て、見事「優勝」を勝ち取りました。
夜のコンサートでは、Hank Jones (p)、Jeff Hamilton
(ds)、Christian McBride (b)、Russell Malone (g) と
いうカルテットが伴奏(なんと豪華な伴奏!)で、
Dee Daniels (vo)、
Jane Monheit (vo)、
Joe Lovano (sax)、
Igor Butman (sax)、
Bill Watrous (tb)、
Carl Fontana (tb)、
Benny Powell (tb)、
Mike Grey (tb)、
Benny Golson (sax)、
Clark Terry (tp)
らが次々に現れては演奏を披露。
また、Ray Brown Trio や Roy Hargrove Quintet など
も登場し、迫力ある演奏を繰り広げました。
ハイライトのひとつは、Lou Rawls (vo) のショウ。強
烈な個性と存在感、そしてユニークな歌唱についつい引
き込まれてしまいます。
やっぱりジャズはライブがいい!
<またまた一服:観光とショッピング>
これだけイベント満載のツアーでありながら、ショッピ
ングや観光も、一応、おさえてあります。
サンフランシスコでは、ゴールデン・ゲート・ブリッジ、
ツインピークス、クリフハウス、フィッシャーマンズワ
ーフのほかに、あまり普通の観光では行かないヘイト・
アッシュベリーというヒッピー発祥の街も訪れました。
ロスでは、サンセットブールバードとチャイニーズシア
ター。そしてサウス・コースト・プラザ・ショッピング・
センターで買い物を楽しみました。
<国際交流イベント>
今回のアメリカ公演には、国際交流的意味合いも強く持
たせてあります。
ロサンゼルス Irvine High School と El Dorado High
School では、BSのメンバーが、アメリカの家庭にホー
ムステイさせていただきました。
また、両校でBSが演奏を披露したところ、そのレベルの
高さに、先生方も生徒たちも驚嘆。ジャズバンドに所属
しているハイスクールの生徒など、「今までにぼくが聞
いた中で最高のビッグバンドだよ」などと、興奮して叫
んでいました。
もちろん、ほとんどのコンサートでスタンディング・オ
ベーション、拍手の嵐でした。「アメリカの音楽を日本
人がこんなに上手に演奏するなんて・・・。私はアメリ
カ人として恥ずかしい」とまで言ってくださる方もおら
れました。
各地のアメリカ人が一様に驚いていたのは、BSが音楽専
攻の学生でないこと。日本には公的なジャズ教育システ
ムが存在せず、バンドディレクターもなしに独学でここ
まで音楽を作るということが信じられない様子でした。
しかも、これだけの努力をしながら、そのことで「単位」
が取れるわけではないと聞いて二度びっくり。
一方、BS側の驚きは、なによりもスタンディング・オベ
ーション。日本ではなかなか経験できないこの感激を、
ツアー中幾度となく味わえたことは大きな喜びでした。
また、アメリカのジャズ教育情報の多さも驚きだったよ
うです。譜面専門店、楽器専門店、ジャズCD専門問屋な
どを訪れて、その豊富な品揃えに圧倒される。さらに、
クリニックやワークショップでも、独学では気付かない
点を次々と指摘され、参考になったようです。
<ベイシーへの愛>
今回のツアーでは、たくさんの「よい偶然」に恵まれま
した。出発前は「演奏10回、指導4回、ゲスト1人」の予
定だったのが、現地でどんどん増えていったのです。
BSがほかのバンドと少し違うのは、Count Basie に対す
る「愛」と呼べるほどの思い入れがあること。音楽を
(あるいはBasieを)好きで好きでたまらないという想い
の強さが、まわりの人に伝播して、感動と共感と、そし
て幸運を呼び寄せたのかもしれません。
とにかく、ワールド・プロジェクト史上空前の、濃密な
アメリカ公演企画は、大成功のうちに幕を閉じることが
できました。みなさんに感謝!
ワールド・プロジェクト・ジャパン 黒坂洋介
投稿者 kurosaka : 2004年3月15日