ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


【連載】管楽器のための呼吸法講座

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初出:KOBEjazz.jp


【呼吸法講座インデクス】
vol.01波呼吸法は折返点の操作
vol.02 外柔芯剛の身体をつくる
vol.03 JIT[ジット]折返点観察呼吸法
vol.04 FWAT[フワット]折返点延長呼吸法
vol.05 MOT[モット]折返点遅延呼吸法
vol.06 PWIT[プイット]折返点漸離呼吸法
vol.07 ボトミングを練習しよう
vol.08 四つの腹式呼吸
vol.09 管楽器演奏にはまま呼息を
vol.10 二つのまま呼息

呼吸を変えれば音楽は変わる!
著:黒坂洋介
https://amzn.to/42g0Ugp

【著者】
●水行末(すいぎょうまつ)
ハイノート講座「タングマジック」プロデューサー。
「まま呼息の発見」「楽呼吸法 〜インナー・ウォーム
アップの方法〜」「ウォーター&ブレス」など呼吸法
関連の論文多数。雑誌「楽器族。ブラストライブ」では
「音楽家のためのメディテーション "ねこ気功" 入門」
を連載中。合奏音楽のための国際音楽プロダクション
ワールド・プロジェクト・ジャパン」代表。2009年
9月から始まる高校生ジャズオーケストラ・コンテスト
「ステラジャム」の総合プロデューサー。




【はじめに】
管楽器演奏の呼吸法には、いろんなアプローチがあり
ます。実際の演奏状態に近いものから、身体づくりを
目的とした基礎的なものまで。非常に複雑かつメカニ
カルな方法もあればシンプルで奥深いものもあります。

本連載はおもにブラス奏者を対象とした、シンプルな
基礎的呼吸法をご紹介したいと思います。まじめに取
り組めば、おもしろいように身体が変わっていくのを
感じられることでしょう。木管やリズム奏者が取り組
んでも役立つ内容です。お楽しみに♪





第一回【波呼吸法は折返点の操作】

呼吸という現象には、以下五つの状態が含ま
れると考えられます。

1.息を吸っている(吸息)
2.吸いから吐きへ折り返す瞬間(すは点)
3.息を吐いている(呼息)
4.吐きから吸いへ折り返す瞬間(はす点)
5.息を止めている(止息)

これらのうち、2.吸いから吐きへの折り返し
を「すは点(すい・はきの頭文字から)」、
4.吐きから吸いのそれを「はす点」と呼び、
両方合わせて「折返点(せっぺんてん)」と
総称します。

本連載でご紹介する呼吸法は、この折返点を
操作することで金管楽器演奏に役立てるもの
で、名前を「波呼吸法(なみこきゅうほう)」
といいます。

波呼吸法にはたくさん種類がありますけれど
も、ここでは演奏の基礎トレーニングとして
効果が高いと考えられる四つを解説します。

1.JIT(ジット=折返点「観察」呼吸法)
2.FWAT(フワット=折返点「延長」呼吸法)
3.MOT(モット=折返点「遅延」呼吸法)
4.PWIT(プイット=折返点「漸離」呼吸法)

当面、どの呼吸法をやるときも、鼻から吸っ
て鼻から吐きます。これを「ニーノ(NINO=
Nose In Nose Out)」といいます。口を使う
呼吸は中級で扱います。

次回は、呼吸法に取り組むための身体につい
てお話しします。

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第二回【外柔芯剛の身体をつくる】

呼吸法を効果的に身につけていくために重要
なのは、「外柔芯剛(がいじゅうしんごう)」
の身体で練習することです。これは、

●できるだけ体表面の力を抜き、
●体の芯部で身体を支えるように立つ

ことをいいます。別の角度から見れば、

●体表面は重力にしたがって垂れ落ち、
●体芯部は重力に逆らって吊り上げられる

ような感覚が生じますので「外垂芯吊(がい
すいしんちょう)」という表現もできます。

「外柔芯剛」「外垂芯吊」を感じるための簡
単な体操をご紹介しておきましょう。

1.まずリラックスして立ちます。
2.両肩をぐっと持ち上げます。これが「筋力
 ON」の状態です。
3.筋力を瞬時にOFFにすると、両肩がドロン
 と垂れ落ち、両腕がブランと揺れます。
4.こうして何回か筋力のONとOFFを繰り返す
 うちに、だんだん肩から腕の力が抜けてい
 きます。
5.体表面の脱力が進むと、次第に体の内側に
 「芯」が通ってくるのを感じます。

まずはこの「肩のON&OFF」で外柔芯剛(も
しくは外垂芯吊)を感じてみてください。

決して急がず、そして力まないでやるのがコ
ツです。ゆっくり、のんびり、楽〜にどうぞ☆

次回は、JIT(ジット=折返点観察呼吸法)
をご紹介します。

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第三回【JIT ジット=折返点観察呼吸法】

メトロノームを60にあわせ、4拍ごとに鈴が
鳴るようにセットします。

4秒吸って、4秒吐き、また4秒吸って、4秒吐
いて、と呼吸を繰り返しながら、「すは点」
と「はす点」を観察します。呼吸はニーノで
行ないます。

やることは、これだけです。吸い続ける間お
よび吐き続ける間は、空気の流れが一定にな
るよう心がけてください。息のスピードをな
るべく一定に保つ。息の量も一定に。

そして、なめらかに、なめらかに、ひたすら
なめらかに呼吸を繰り返してください。

これが「折返点観察呼吸法 JIT(ジット)」
です。呼吸を「じっと」みつめることから、
この名前をつけました。

慣れてきたら、6秒吸って、6秒吐き、6秒吸っ
て、6秒吐きを繰り返します。8秒吸って、8
秒吐き、8秒吸って、8秒吐くという呼吸を、
なめらかに続けられるようになるのが、当面
の目標です。

折返点は、折り返す瞬間という「時間的な点」
です。その瞬間に、自分の身体に何が起きて
いるか。それをていねいに観察してください。

「息を吸う」のと「吐く」のとでは、筋肉の
使い方が180度逆ですね。まったく正反対の
運動をしていることを身体で理解するのが、
JITの重要な目的のひとつです。

次回は、FWAT(フワット=折返点延長呼吸法)
です。

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第四回【FWAT フワット=折返点延長呼吸法】

ここで折返点に操作を加えます。折返点を延
長するのです。これを「波呼吸法 FWAT(フ
ワット)」と呼びます。折返点を「ふわっと」
引き延ばすからです。

まず、息を吸い終わってから吐き始めるまで
の間隔を長くする、つまり「すは点」を時間
的に引き延ばします。同様に「はす点」も延
長します。呼吸はニーノです。

3秒吸って、1秒の「すは点」を設け、3秒吐
いて、1秒の「はす点」を設ける。これを繰
り返します。

大切なのは、「すは点」でも「はす点」でも
喉を閉じないことです。喉を閉じるとそれは
「止め」になってしまいます。折返点は「吸
い」でも「吐き」でも「止め」でもない状態
なのです。

では次に、4秒吸って、2秒の「すは点」を設
け、4秒吐いて、2秒の「はす点」を設け、こ
れを繰り返します。

5秒吸って、3秒「すは点」、5秒吐いて、3秒
「はす点」の呼吸を、なめらかに続けられる
ようになるのが、当面の目標です。

吸い続ける間および吐き続ける間は、空気の
流量および息の速度が一定になるよう心がけ
てください。

次回は、初公開の呼吸法MOT(モット=折返
点遅延呼吸法)です。より多く吸い、より強
く吐ける身体をつくる方法です。

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第五回 【MOT モット=折返点遅延呼吸法】

かなり強力な呼吸法です。力んでやると逆効
果ですので、かならず外柔芯剛のトレーニン
グをして、とろ〜んとした質感の身体を作っ
てから取り組んでください。

MOTは折返点に「遅延」という操作を加えま
す。折返点が来るかなと思った時点からさら
に「もっと」息を吸ったり吐いたりして、
実際の折返点が遅れて訪れるわけです。

呼吸はニーノです。まず、息を「3秒で吸い
切るつもりで」吸い込んでください。本来な
ら3秒目にすは点(これを仮折返点といいま
す)が来るはずですけれども、そこでさらに
1秒間余分に吸い、実際のすは点(本折返点)
を迎えます。

そして、「3秒で吐き切るつもりで」吐き出
します。仮折返点で肺の中は空っぽに近いわ
けですが、そこからさらに1秒吐き出して本
折返点としてのはす点を迎え、吸いに転じま
す。これを繰り返すのがMOTです。

大切なのは、力まないこと。力づくでやると
筋肉を傷めたり、気分が悪くなりますので、
注意深くおおらかな心身で行なってください。

「4秒で吸い切るつもりで」仮折返点、そこ
からさらに2秒吸い本折返点(すは点)、そ
こから「4秒で吐き切るつもりで」仮折返点、
そこからさらに2秒吐いて本折返点(はす点)
を繰り返します。

5秒で仮折返点、そこからさらに3秒で本折返
点の呼吸を、なめらかに続けられるようにな
るのが、当面の目標です。

吸い続ける間および吐き続ける間は、空気の
流量および息の速度が一定になるよう心がけ
てください。

次回は、これも初公開のPWIT(プイット=折
返点漸離呼吸法)です。より深く吸い、より
豊かに吐ける身体をつくる方法です。

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第六回【PWIT プイット=折返点漸離呼吸法】

折返点(すは点とはす点)が、だんだんと離
れていく呼吸法です。すは点くんとはす点さ
んが「プイッ」とそっぽを向くイメージから、
PWIT と命名しました。

とろ〜んとした外柔芯剛の身体になり、鼻か
ら吸って鼻から吐く「ニーノ」でやります。

息を1秒吸い、2秒吐き、3秒吸い、4秒吐き、
5秒吸い、6秒吐き、7秒吸い、8秒吐き、9秒
吸い、10秒吐き ...という具合に、秒数を伸
ばしていきます。29秒吸い、30秒吐くところ
までやったら1セット終了です。

吸い続ける間および吐き続ける間は、空気の
流量および息の速度が一定になるよう心がけ
てください。

肺を「ひとつの大きな袋」として感じるので
はなく、無数の微小な袋(肺胞)の集合体で
あることを思い出しながらやるとよいでしょ
う。小さな小さな隙間に空気をしみわたらせ
るように吸い、その細かい隙間からしぼり出
すように息を吐く練習です。

肺の容量は、自分で考えている以上に大きい
と気付かれることでしょう。また、「もう吐
けない」と思っても、そこからまだ吐く息が
残っていることにも。

PWIT にはいくつかのバリエーションがあり
ます。

1.すはさる(吸気を伸ばす)
 1秒吸って、1秒吐いて、2秒吸って、1秒吐
 いて、3秒吸って、1秒吐いて、4秒吸って、
 1秒吐いて ...というふうに、呼気の長さは
 一定で、吸気だけをどんどん長くしていき
 ます。 すは点が去っていくから「すは去
 る」です。30秒吸うところまでで1セット。

2.はすさる(呼気を伸ばす)
 1秒吸って、1秒吐いて、1秒吸って、2秒吐
 いて、1秒吸って、3秒吐いて、1秒吸って、
 4秒吐いて ...というふうに、吸気の長さは
 一定で、呼気だけをどんどん長くしていき
 ます。はす点が去っていくから「はす去る」
 です。30秒吐くところまでで1セット。

3.ともさる(吸気、呼気ともに伸ばす)
 すは点もはす点もともに去っていくのが
 「とも去る」。

 a.パラレル
 1秒吸って、1秒吐いて、2秒吸って、2秒吐
 いて、3秒吸って、3秒吐いて、4秒吸って、
 4秒吐いて ...というふうに、吸気と呼気を
 同じ秒数にしながら、どんどん長くしてい
 きます。30秒呼吸までやったら1セット。

 b.ジグザグ
 1秒吸って、2秒吐いて、3秒吸って、4秒吐
 いて、5秒吸って、6秒吐いて、7秒吸って、
 8秒吐いて ...というふうに、吸気と呼気を
 交互にどんどん長くしていきます。


冒頭でご紹介したPWITは「ともさるジグザグ」
だったわけです。

次回は、管楽器演奏に重要な「ボトミング」
というトレーニングについてご説明します。

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第七回【ボトミングを練習しよう】

哺乳動物の肛門と生殖器の間の部分を「会陰
(えいん)」といいます。ここは体幹部(胴
体)の底にあたり、呼吸法を学ぶ上でたいへ
ん重要なポイントとなります。

この体幹部の底(ボトム)を集中的に鍛える
会陰のトレーニングが「ボトミング」です。

息を吸いながら会陰を引き上げ、吐きながら
会陰を降ろす。これをボトミングの「すいあ
げーはきさげ」といいます。といっても、会
陰の上げ下げは簡単ではないので、少し練習
してみてください。

会陰を上げるのは難しいけれども、降ろすの
もの意外にできないものです。メトロノーム
を「四分音符=46」に合わせて、一拍目です
いあげ、二拍目ではきさげ、三拍目ですいあ
げ、四拍目ではきさげ...と、これを八小節やっ
て休憩です。

会陰を上げ下げする感覚がわかってきたら、
同じ要領で「すいさげーはきあげ」も練習し
ます。吸いながら会陰を降ろし、吐きながら
上げる。これを一拍ごとにやります。

最後に、実際の管楽器演奏に使えるボトミン
グ「すいあげーはきあげ」を練習します。こ
れは、息を吸いながら会陰を引き上げ、吐き
ながらも会陰を上げたままというものです。
つまり、会陰は上がりっぱなし。

これができるようになると、管楽器演奏に必
要な「腹部での息の支え」が楽に身につけら
れます。

ボトミングは呼吸に上達するうえで非常に重
要なトレーニングです。最初のうちはピンと
こないかもしれませんが、短い時間で構いま
せんので、かならず毎日練習してください。

三カ月後には身体が変わっているのに気付か
れるでしょう。

次回は、四つの腹式呼吸について整理します。

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第八回【四つの腹式呼吸】

<第一の腹式呼吸>
腹式呼吸を習うとき、以下のように教わる人
が多いのではないでしょうか。

 息を吸うとき腹がふくらみ(→ふく)
 息を吐くとき腹がへこむ(→へこ)

これが第一の腹式呼吸「ふくへこ」です。


<第二の腹式呼吸>
腹式呼吸には二種類あるとする文献を見かけ
ることがあります。「順式」と「逆式」です。

順式とは、第一の腹式呼吸「ふくへこ」のこ
とです。一方、逆式とは、

 息を吸うとき腹がへこみ(→へこ)
 息を吐くとき腹がふくらむ(→ふく)

この逆式呼吸こそが、第二の腹式呼吸「へこ
ふく」です。


ここで衝撃的な話をしなくてはなりません。

残念なことに、第一の腹式呼吸「ふくへこ」
も、第二の腹式呼吸「へこふく」も、どちら
も管楽器演奏にはふさわしくないと考えられ
るのです。


<第三の腹式呼吸>
管楽器演奏に役立つと考えられる呼吸のひと
つが、以下に紹介する「ふくふく」です。

 息を吸うとき腹がふくらみ(→ふく)
 息を吐くとき腹がふくらむ(→ふく)

つまり、ずっと腹はふくらんだままです。
尺八の奏法では、これを「密息」と呼ぶそう
です。また、ヨーロッパの管楽器奏者はこの
呼吸を使う人が多いとか。


<第四の腹式呼吸>
もうひとつ管楽器演奏に役立つと考えられる
呼吸が「へこへこ」です。

 息を吸うとき腹がへこみ(→へこ)
 息を吐くとき腹がへこむ(→へこ)

これは、太極拳の拳勢式呼吸などに見られる
ほか、クラウド・ゴードンの指導するチェス
トアップもこれに相当すると考えられます。

ちなみにゴードンによる腹式呼吸批判は有名
ですが、これは第一の腹式呼吸「ふくへこ」
を批判したものだとすれば理解できます。
「ふくへこ」は演奏に適さないからです。

しかしながら、ゴードンの推奨したチェスト
アップもまた、広い意味では腹式呼吸の一種
であると考えるのが合理的だといえます。

そもそも「腹式」は「胸式」に対する概念。
呼吸において腹部に影響が及ばないほど浅い
ものを胸式と呼び、腹部との連動が生じるほ
ど深い呼吸を腹式と定義するならば、腹式に
は上記の四種類が基本形として存在するから
です。

次回は、どうして「ふくへこ」「へこふく」
が管楽器演奏に適さないのかについてご説明
しましょう。

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第九回【管楽器演奏にはまま呼息を】

<つつ呼息とまま呼息>
吐く息のことを「呼息(こそく)」といいま
す。四つの腹式呼吸を、呼息時の腹部の動き
に注目して分類するなら、以下の二種になり
ます。

1.つつ呼息
 第一の腹式呼吸「ふくへこ」
 第二の腹式呼吸「へこふく」

2.まま呼息
 第三の腹式呼吸「ふくふく」
 第四の腹式呼吸「へこへこ」

つつ呼息とは、腹をへこませ「つつ」、ある
いはふくらませ「つつ」呼息するもの。

一方まま呼息は、腹をふくらませた「まま」、
あるいはへこませた「まま」呼息するもの。

つまり呼息時(吐く時)の腹部に

 動きのあるものが「つつ呼息」
 動きのないものが「まま呼息」

となります。


<腹部は構造的に弱い>
胸部は肋骨、腰部には骨盤があって形状が安
定していますけれども、腹部には骨が腰椎し
かなく、あとは内臓と筋肉だけです。つまり
腹部は構造的に不安定なのです。

管楽器演奏に必要な「コントロールされた呼
気」を作り出すためには、腹部がふらふらと
不安定では都合が悪い。この部分をきちんと
安定させておかないと、呼気の制御がしにく
いのです。

したがって、息を吐く時に腹が動く「つつ呼
息」は、管楽器演奏にふさわしくないという
ことになります。

腹をふくらませた「まま」あるいはへこませ
た「まま」、つまり構造的に弱い腹部を安定
させた状態をキープして、その上で呼気をコ
ントロールするのが望ましいわけです。

次回は、二つのまま呼息について。

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第十回【二つのまま呼息】

<ふくまま&へこまま>
第三の腹式呼吸「ふくふく」を利用した管楽
器奏法を「ふくまま呼息」、第四の腹式呼吸
「へこへこ」を利用したものは「へこまま呼
息」と呼ぶことができます。

クラウド・ゴードンのチェストアップは、こ
の「へこまま呼息」という腹式呼吸であると
考えられます。

また、ボビー・シューの指導する「ヨーガ完
全呼吸(※)」も、息を吐く部分にだけ注目
すれば同じく「へこまま呼息」です。吸息の
ほうにいろんなくふうを加えてありますけれ
ども、本質的にはチェストアップのバリエー
ションと考えてよいでしょう。


※ボビー・シューのヨーガ完全呼吸
第1ステップ:小さく吸う。腹は少しふくら
 む。リラックスして。
第2ステップ:大きく吸う。腹は水平に内側
 へへこむ。
第3ステップ:腹はへこませたまま、大きく
 吸い、肩を真上に上げる。
第4ステップ:腹筋をアイソメトリックに締
 める。くさびを腹の奥に打ち込みロックす
 るつもりで。
第5ステップ:肩をリラックスさせて、演奏
 する時の位置まで降ろす。
第6ステップ:舌先に乗せた米粒を吹き飛ば
 すように吐く。


<へこまま呼息への道>
筆者のプロデュースするハイノート講座「タ
ングマジック」でも、へこまま呼息を基本に
しています。

理想的なへこまま呼息を実現するためには、

1.胸部から上をゆるめること
2.腹部から下を安定させること

の両方を実現する必要があります。

胸部から上をゆるめるためには、本連載第二
回でご紹介した「外柔芯剛」のトレーニング
が役立ちます。第三回のJIT、第四回のFWAT
なども、胸部のリラックスを助けます。

腹部から下を安定させるためには、第七回で
ご紹介したボトミングが重要なトレーニング
となります。「すいあげーはきあげ」の状態
をきちんとキープできるようになれば、へこ
まま呼息が楽にできます。

会陰を引き上げ(ボトムアップ)、腹をへこ
ませた状態で息を吸います。この時、胸部か
ら上は十分に柔らかく使います。

そして、息を吐く時は、ボトムアップをキー
プして、腹をへこませた「まま」吐きます。

この「へこまま呼息」を使って、連載第五回
でご紹介したMOTをやると、管楽器演奏にふさ
わしい呼吸能力が身についていきます。


Brass Breath の連載はこれで最終回です。


呼吸を変えれば音楽は変わる!
著:黒坂洋介
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投稿者 kurosaka : 2009年3月27日