【ウェブ連載】KOBEjazz.jp
初出:KOBEjazz.jp
【ジャズ☆ねこ気功インデクス】
第1回【快眠☆ねこ気功の世界】
第2回【ねこ気功で育てる音楽家の心身】
第3回【よい姿勢とはニャんじゃろう?】
第4回【吸うはやすく吐くはかたし】
第5回【ヨゴヨゴから練習しよう】
第6回【吸気のトレーニング】
第7回【呼気と吸気のバランス】
第8回【呼吸法で体内観察】
第9回【主客転倒してからがホンモノ】
番外1【ねこ気功ソング】※試聴できます♪
番外2 ひとりの五分間(ヒトゴ)
<アートと呼吸のエンタテイメント>
|ジ|ャ|ズ|☆|ね|こ|気|功|
音楽家にとって「身体」「呼吸」そして「意識」のコ
ントロール能力は上達の要といえるでしょう。これは
気功で「調身」「調息」「調心」と呼んで重視してき
たものと共通します。また、演奏家だけでなく、ふつ
うの生活においても、この三要素は快適で楽しい暮ら
しのために大切な要素なのです。「ジャズ☆ねこ気功」
は、猫の寿限無老師と弟子の水行末によるジャズ&気
功エンタテイメント。「良気」あふれるトークショー
を楽しみながら、身体と呼吸と意識を整えてください♪
【登場人物】
■水行末(すいぎょうまつ)
ジャズ☆ねこ気功の狂言まわし。猫の気功師・寿限無
老師(じゅげむろうし)のメッセンジャーとして対談
相手をつとめる。実生活ではハイノート講座「タング
マジック」プロデューサー。「まま呼息の発見」「楽
呼吸法〜インナー・ウォームアップの方法」「ウォー
ター&ブレス」など呼吸法関連の論文多数。雑誌「楽
器族。ブラストライブ」では「音楽家のためのメディ
テーションねこ気功入門」を連載中。合奏教育のため
の国際音楽プロダクション「ワールド・プロジェクト・
ジャパン」代表。
■寿限無老師(じゅげむろうし)
猫の気功師。現実と空想の境界にあるファンタジー世
界「きゃたりうむ」に住むといわれるが詳細は不明。
ねこ気功の開祖。音楽家のための身体操作、意識操作、
呼吸法などの提言多数。
【水行末の著書とブックCD】
杉山正氏との共著に金管奏者向け教則本2冊。「フレッ
クス・タング・ビルド 〜強靭で柔軟な舌を開発する〜」
「ハイ・エア・ビルド 〜音域5オクターブの開発〜」
Qキャッツ名義でブックCD「快眠☆ねこ気功」をリリ
ース。ベッドにころがってCDを聞きながら寝てしまう
だけという超カンタン気功です。歌にあわせて呼吸法
の練習ができる「パジャマで出かける呼吸旅行」収録。
第1回【快眠☆ねこ気功の世界】
水:老師、いよいよ始まりましたね。
寿:ニャんじゃ?
水:KOBEjazz.jpでの連載ですよ! 老師とジャズの話 をするだなんて思ってもみませんでした。
寿:そうかニャ。吾輩はこれでもジャズ好きニャんじゃ
がな。
水:え〜? そいつは初耳です。
寿:ジャズ、つまり即興演奏というのは、気功に通じる
ものがあるんじゃ。
水:はあ。
寿:ま、それはおいおい話すとして、今回は例のブック
CDについて解説しようと思うがニャ。
水:「快眠☆ねこ気功」ですね。お願いします。
寿:これは今までになかった、ユニークなスタイルの気
功テキストと考えておる。
水:そうでしょうね。気功へのリードメッセージあり、
物語あり、歌あり、演奏あり、幻想的なイラストあ
りと、なんだか絵本のような感じですもの。
【快眠☆ねこ気功ブックCD】
寿:とっつきやすい印象じゃが、なかなかどうして高度
な気功法ニャんじゃぞ。
水:そのあたりをくわしく教えてください。
寿:うむ。まず、このブックCDは「三つの境界」からで
きておることことを理解せよ。
水:三つの「境界」ですか?
寿:ひとつは「めざめ」と「ねむり」の境界。
水:ああ、「まどろみ」というやつですね。起きてもい
ないし、眠ってもいない状態。
寿:つぎに「現実」と「空想」の境界じゃ。
水:ファンタジーというのは、完全に空想の世界じゃな
いんですか?
寿:そんなふうに思うじゃろ? しかし、そこにまった
くリアリティがないとファンタジーとして機能しニャ
いんじゃよ。
水:どこまでが現実でどこからが空想か、はっきりしな
いほうがいいということですか?
寿:まあ、そういう表現もできるかニャ。三つ目の境界
は「心」と「身体」の境界じゃニャ。
水:これはよくわかります。練功(気功を練習するこ
と)していると、身体と心の境界がわからなくなると
いうか、その境界部分が大きくなるというか、そんな
感じがしますもの。
寿:ニャはは、いいぞ、いいぞ。そういう状態のこと
を、気功では一般に「入静(にゅうせい)」と呼んで
おる。ある種の瞑想状態じゃニャ。
水:でも、けっこう練功を積まないとこの感覚は生まれ
ないような気がするんですが。
寿:それは、ふつうの気功法ではの話じゃニャ。
水:というと、ねこ気功は違うんですか?
寿:それが快眠☆ねこ気功じゃよ。めざめとねむりの境
界を利用して、瞑想体験を身近なものにするんじゃ。
水:でも、瞑想と睡眠は違うんじゃないですか?
寿:そこじゃニャ。このブックCDの狙いは、眠れば眠っ
たでよし、眠らなければ瞑想に入ればよし、というと
ころにある。
水:えーと...
寿:よいか、人間の意識状態というのは、けっして一定
ではニャい。たえず揺れ動いておるものじゃ。
水:たしかに。
寿:睡眠も瞑想も、日常の意識状態から見ると特殊なも
のじゃが、途中までは方向が同じニャんじゃ。
水:方向って?
寿:日常意識から「まどろみ」の方向へ向かうところま
では同じで、そこから瞑想と睡眠に分岐するんじゃ
ニャ。
水:はあ。
寿:ただ、ことはそんなに単純ではなくて、まどろみか
ら一気に睡眠に行く場合もあるし、瞑想方向と睡眠方
向をウロウロすることもある。まどろみへ引き返すと
いうこともある。
水:いわゆる「夢うつつ」というやつですか?
寿:その通り! それは文字通り「空想」と「現実」の
境界ということじゃニャいか?
水:あ、なるほど!
寿:「めざめ」と「ねむり」の境界のような状態のとき
に「空想」と「現実」の境界世界のファンタジーを聞
くと、人間は社会的制約やいわゆる常識というものか
ら比較的簡単に解放されるのじゃ。
水:それって、お母さんが子どもに童話を聞かせながら
寝かすのと似てますね。
寿:いいところに気がついたニャ。子どもはそもそもが
気功的存在ニャんじゃよ。
水:つまり身体と心が明確に区別できていないと?
寿:人間には心身未分化の領域というものがある。身体
でもニャい、心でもニャいという領域じゃ。子どもは
日常的にその領域に生きておるのじゃ。
水:それを人為的に体験しようとするのが気功のトレー
ニングというわけですか?
寿:ほほう、いい線いっとるのう。しかし、それは気功
だけじゃにゃいぞよ。ジャズの演奏もまた心身未分の
世界ニャんじゃ。
水:え、そっちへ行きますか!
寿:いきなりそんなことを言われても、はいそうですか
というわけにはいかんじゃろうがニャ。
水:そういえば「快眠☆ねこ気功」ブックCDで作曲と歌
を担当しているユキイナバさんもジャズシンガーが本
職でしたよね。
【快眠☆ねこ気功ブックCD】
寿:うむ。そして、ねこ気功の原理を姿勢や歌唱にも応
用しようと勉強中じゃよ。
水:気功って、実際にジャズにも応用できるんですね。
寿:そのあたりに焦点をしぼって、この連載「ジャズ☆
ねこ気功」では、気功的観点から人間の身体、意識、
そして呼吸を考察し、ジャズ的コミュニケーションと
関係させながら語ろうではニャいか。
水:いいですね。よろしくお願いいたします!
寿:おっと、堅苦しいのはやめにしよう。いつも通り、
おもしろおかしく、エンタテイメントでいこうニャ。
水:はいな!
(つづく)
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第2回【ねこ気功で育てる音楽家の心身】
水:老師、演奏家が気功をやる意味ってなんですか?
寿:お、いきなり核心をつく質問じゃニャ。
水:だって、楽器の練習と気功とをどう結びつけていい
かわからないんですもん。
寿:たとえば江戸時代の剣術家には、座禅に打ち込んだ
者が少なくなかったのを知っておるかニャ?
水:ああ、聞いたことがあります。「剣禅一如」という
やつですね。それって、精神修養のためじゃないん
ですか? 生死をかけた勝負でも平常心でいられる
ように。
寿:うむ、たしかにその意味合いは強い。しかし、きみ
は精神と肉体を完全に分けて考えておるじゃろ?
水:精神は精神、肉体は肉体ですよね?
寿:その両者はまったく別のものかニャ?
水:う〜ん、たしかに相互に影響を与えることはあるよ
うな気がしますね。肉体の調子が悪いときは気力も
出ないし、おもしろくないことがあった時は体調も
悪いような...。
寿:前回の対談で「心と身体の境界」の話をしたのを覚
えておるかニャ?
水:ええ。
寿:あの時きみが言ったように、気功状態では心と身体
の「境界領域」が大きく広がる感じがする。
水:はあ、つまり心と身体はきちっと二つに分かれるも
のではなくて、境界領域というグレーゾーンがある
わけですね?
寿:グレーゾーンというよりも、両者はアナログ的に連
続しているんじゃよ。
水:え〜!? でも日常の意識状態では、なかなかそん
なふうに感じられないですね。
寿:気功の世界に「意至れば気至る、気至れば血至る」
という言葉があるぞよ。
水:意至れば気至る、ですか?
寿:意識を向けたところに気が集まるということじゃ。
そして気が集まったところに血が集まる。
水:ようするに意識を向けると肉体にも変化が出るとい
う意味ですね。
寿:ごく初歩的な意味ではその通りじゃニャ。
水:ところで「気」ってなんですか?
寿:「気とはなにか」というのは、たいへん大きなテー
マなので、いずれくわしく考えることにしよう。今
は「気は心と身体をつなぐもの」ぐらいに思ってお
けばよい。
水:はい、わかりました。では、最初の質問に戻らせて
ください。演奏家がねこ気功をやる意味ってどこに
あるんですか?
寿:ここまでの対話でわかったように、心と身体を分け
て考えることは、かならずしも適当ではニャい。日
常生活のような「おおざっぱな」動作ばかりならそ
れでもよいが、武術とか音楽とか精密な運動に取り
組む場合は、心と身体の境界領域を繊細に調整する
必要が出てくる。
水:そこに、ねこ気功を練習する意義があるということ
ですね。
寿:現代でも、ピアニストがカンフーをやったり、打楽
器奏者が空手を習ったりする例はある。能楽師が座
禅ならぬ立禅に打ち込んでいるという話もあるぞ。
水:むしかえすようですが、それらはやはり精神統一の
ためじゃないんでしょうか?
寿:それと同時に技術向上にも役立つのじゃよ。
水:そこんとこがわからないんですよ。ピアノの技術と
カンフーは関係ないし、能と立禅もどうつながるの
かさっぱりわからないので...。
寿:いくつかの次元で説明できるが、まず第一には筋力
トレーニングの側面がある。
水:これは意外! 筋トレですか?
寿:武術、座禅あるいは立禅、さらにはねこ気功などの
ボディワークには、深層筋(インナーマッスル)を
鍛えるメニューが含まれておる。
水:深層筋というと、身体の深いところ、たとえば背骨
まわりに付着している筋肉ですね。
寿:うむ。こういう筋肉群は奥深いところにあるため、
マシンを使った筋トレなどでは鍛えにくいんじゃ。
しかし、たとえば立禅のように、リラックスした状
態でじっと立つ姿勢を長く保つトレーニングを続け
ると、自然に身体深部の筋肉が動員されるのじゃ。
水:へえ〜、そうなんですか!
寿:今日は呼吸法についてくわしく語る余裕はニャいけ
れども、立禅と呼吸法を組み合わせれば、さらに効
率的にインナーマッスルを強化できるぞよ。
水:ねこ気功でいうとどうなります?
寿:たとえば「ねこばしり」という背骨を前後方向に動
かす練習。これは背骨まわりの小さな筋肉群および
大腰筋(背骨と大腿骨をつなぐ長い筋肉)を活性化
する。ねこばしりのやり方はこちらにあるので参照
してほしいニャ。
水:つまり、ねこ気功はインナーマッスルの強化トレー
ニングだから楽器演奏に効果があるんですね。
寿:うむ、それが第一じゃ。次に、脳・神経系の開発に
も役立つ。
水:おっと、むずかしそうな話ですね。
寿:ねこ気功のような動作や呼吸を毎日続けていると、
脳内のセロトニン神経という部分に刺激を与えるこ
とがわかっておる。
水:それはねこ気功だけですか?
寿:いや、ほかの流派の気功でも、ヨーガや武術でも、
あるいは呼吸法でも同様の効果があると考えられる
が、ねこ気功はそれらのエッセンスをシンプルにま
とめたものニャんじゃ。
水:セロトニン神経に刺激が与えられるとどうなるんで
すか?
寿:セロトニン神経は運動神経を活性化し、筋肉に対し
て「活」を入れると言われておる。
水:ねこ気功をやると運動神経がよくなるってこと?
寿:長期的に見るとそういうことが言えるニャ。
水:ビックリですね〜!
寿:しかも、ねこ気功で求められるような「力を抜いて
立つ」「ゆったり動く」という練習において、人は
重力の存在を強く感じざるを得ない。
水:重力、ですか?
寿:我々は地球上で強烈な「上から下への力」に常時さ
らされている。それは「重力の滝」に打たれている
と言ってもいいほどの重圧ニャんじゃ。
水:でも、ちっとも感じませんよ。
寿:それは生まれたときから四六時中浴び続けているの
で慣れてしまったんじゃニャ。足首、ヒザ、腰など
の関節を痛めた時には、自分の身体がいかに重いか
に気づかされるじゃろう。
水:あ、そうそう、病気で寝ている時とか、起きるのが
大変だったことがあります。
寿:この強大な「重力」との関係を改善することが、ね
こ気功の大きな課題であるし、それは楽器演奏にお
いても、本来、最重要テーマとして扱われるべきも
のなんじゃよ。
水:重力と楽器演奏ですか...。
(つづく)
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第3回【よい姿勢とはニャんじゃろう?】
寿:こんな言葉を知っておるかニャ?
下農は草を見て草をとらず、
中農は草を見て草をとり、
上農は草を見ずして草をとる。
水:ゲノウ、チュウノウ、ジョウノウ? なんですか、
それは?
寿:下農とは勤勉でないお百姓さんのことじゃ。草が
生えていても、なまけてそれをとろうとしない。
水:はあ。
寿:中農はふつうのお百姓さんじゃ。畑に生えた草を
見ると、草むしりをする。ま、あたりまえのこと
じゃがニャ。
水:となると、上農は立派な百姓さんですね。
寿:うむ。すぐれた農夫は、草が生える少し前に、土
をかいて草が生えないようにするのじゃ。
水:なるほど。草を「問題」に置き換えれば、一般の
ビジネスにも言えそうですね。能力の低いビジネ
スマンは問題が起きてからも解決しようとしない。
ふつうのビジネスマンは問題が起きてから対処す
る。しかし優秀なビジネスマンは、問題が起きな
いようにくふうするとか。
寿:その通りじゃ。同じことが音楽の練習についても
言えるじゃろうニャ。
水:問題を解決しない人、問題が起きてから解決する
人、問題が起きないようにくふうする人ですね。
寿:こんな表現もあるぞよ。
下農は雑草をつくり、
中農は作物をつくり、
上農は土をつくる。
水:ははあ、これは「なにに着目するか」という意識の
問題を言っているんですね。
寿:お、たまにはまともなことを言うじゃニャいか。
水:えへへ、えへへ...。
寿:意識の低い者は雑草、つまり問題ばかり引き起こ
しておる。平凡な能力の音楽家は作物をつくる、
これは楽器の練習だと解釈できるニャ。
水:では、すぐれた音楽家がつくる「土」ってなんで
すか?
寿:ニャんじゃと思う?
水:う〜ん、身体ですか?
寿:まずは33点獲得じゃニャ。
水:えらく半端な点数ですね...。あ、わかった!
意識だ! すぐれた意識を作るのが「土」なんだ。
寿:それで33点が加算されて、66点にニャる。
水:え〜? 残りの点数はなんですか?
寿:前回の対談を思い出してみるのじゃ。
水:えーと、えーと...。そうか「気」ですね! 心と
身体をつなぐものとしての「気」でしょ?
寿:正解じゃ。身体、意識、そして両者をつなぐ境界
領域の「気」。ここに注目するのが上農としての
土づくりに相当すると吾輩は考えるニャ。
水:具体的にはなにをすればいいんですか?
寿:前回、重力の話をしたのを覚えておるかニャ?
水:我々は強烈な「上から下への力」に常時さらされ
ている。それは「重力の滝」に打たれているとさ
え言えるほどの重圧だ、ということですよね。
寿:その「滝」に逆らって直立しているのが人類じゃ。
吾輩のような猫は四つ足動物じゃから、重力の影
響が格段に少ない。しかし、人類はまっすぐ立つ
ために膨大なエネルギーを必要としておるのじゃ。
水:でもみんな普通に立っていますよ。
寿:そこが認識の甘さじゃ。
水:え? だって人間なら誰でも当たり前に立ってる
じゃないですか。
寿:立ち方に「うまい/へた」があると考えたことは
ないかニャ?
水:え〜!? 立ち方に「うまい/へた」があるんで
すか〜?
寿:たとえば足の裏の外くるぶし側と内くるぶし側の
どちらに体重をかけるのが正しいと思う?
水:どっちでも同じだと思いますが...。
寿:ヒザから下に2本の骨があるのを知っておるか?
水:いえ、知りませんが...。
寿:内くるぶしは太い頸骨(けいこつ)という骨の下
の端ニャんじゃ。外くるぶしは細い腓骨(ひこつ)
という骨の下端じゃ。
水:へえ〜。
寿:で、太い頸骨と細い腓骨、どちらに体重をあずけ
るのがいいと思う?
水:そりゃやっぱり太いほうでしょう。重さを支える
んですから。なるほど、つまり内くるぶし側に体
重をのせるほうが、力学的に無駄がないというこ
とになるわけですね。
寿:では前後ではどうかニャ?
水:つま先かカカトかってことですか? よく足の親
指の付け根に体重をのせろって聞きますが。
寿:これも足の骨格図を見るとよくわかる。足の甲の
中には細い中足骨という5本の骨がある。それに
対して、先ほどの頸骨の真下には距骨(きょこつ)
という大きな骨、その後ろのカカト部分には踵骨
(しょうこつ)というさらに大きな骨がある。
水:とすると、足の前のほうは骨が細いから体重をの
せるには適さない。むしろカカト寄りの大きな骨
で立ったほうがいいことになりますね。
寿:その通りじゃ。だから、ねこ気功では立ち方の基
本として「うちくるぶしの真下に体重を落とす」
ことから練習するのじゃ。
水:あ、あれはそういう意味だったんですね。もし外
くるぶし側で立ったらどうなります?
寿:ふくらはぎまわりの筋肉が体重を支えるために動
員され、ヒザから下がカチカチの「ヨロイを着た
ような」状態になるじゃろう。
水:O脚にはなりませんか?
寿:そのリスクも高まるじゃろうニャ。
水:では足の指側というか前側に体重をのせた場合は
どうです?
寿:これも体重を支えるために、太ももの前側にある
大腿四頭筋が固くなる。ただ、これにはいろんな
留保条件があるので、もっとくわしい話をいずれ
しよう。
水:老師がおっしゃりたいのは、骨で体重を支えれば、
無駄な筋力を使わないで立てるということですね。
寿:その通りじゃ! 今日はサエとるのう。
水:てへ。
寿:このような骨と筋肉の役割分担いかんによって、
巨大な「重力の滝」への対処法は、大きく優劣の
差がつくのじゃ。
水:すると「よい姿勢」とは、見た目がかっこいいと
いうことではなくて、重力との関係がよいという
意味でとらえる必要がありますね。
寿:うむ。重力との関係が悪い姿勢と良い姿勢、それ
が人間の呼吸にどのような影響を与えるかについ
て、次回は話そう。
水:姿勢と呼吸の関係ですね。楽しみです!
(つづく)
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第4回【吸うはやすく吐くはかたし】
水:楽器の演奏でもスポーツや武道でも、よく「力を
抜け」という指導を受けますよね。
寿:そうじゃニャ。
水:でも、パワーが必要なときもあるでしょう? 力
を抜いたらパワーが出ないじゃないですか。
寿:では「力んだ」ほうがパワーが出るのかニャ?
水:え、いや、そうとは思いませんが、力を抜くこと
とパワーを出すことの関係がよくわからないんで
すよ。
寿:きみは、どういうふうにすればパワーが出ると考
えておるのかニャ?
水:筋力トレーニングをやったり、肉を食べたりして
筋肉モリモリになることかなあ。
寿:ニャはは。では、ベジタリアン(菜食主義者)は
パワーがないことになるニャ。
水:違うんですか? 肉を食べてスタミナつけて、と
よく言いますよね。
寿:アメリカのある大学の研究で、菜食主義者はそう
でない者に比べて、約2倍の筋持久力、疲労回復力
をもっていたという報告があるそうじゃ。マラソ
ン、水泳、トライアスロン、クロスカントリー、
ベンチプレス、陸上、空手などのスポーツでも、
ベジタリアンの世界チャンピオンが多く存在して
いるらしいぞよ。
水:そうなんですか!
寿:また、現在、スポーツ界で主流と考えられる短期
的スタミナ増強の栄養摂取法はカーボ・ローディ
ング(carbo-loading)といって、炭水化物を体内
に貯蔵する方法ニャんじゃ。
水:エネルギー源は炭水化物というわけですか。
寿:うむ。しかし、食事の話に深入りする前に、そも
そもパワーとは何かについて整理しておく必要が
あるじゃろうニャ。
水:パワーって力でしょ?
寿:それでは翻訳しただけじゃ。では質問を変えよう。
「力み」とはニャんじゃ?
水:え〜っと、力みは...、「ムダな力」ですかね。
寿:では「ムダな力」とは?
水:必要ない力ですよね。
寿:その通り。つまり「これからやろうとしている運
動に必要でない力」が力みであると定義できるわ
けじゃ。
水:はあ。
寿:我々がなにか動作をするとき、かならず筋入力が
必要になる。ところがその動作を行なうのに必要
最小限の力でそれをやっているかといえば、かな
らずしもそうではニャい。
水:ははあ、そのあたりが「上手/下手」を分けるん
ですね。
寿:そうじゃよ。上手な人は、その動作に必要な筋肉
の部位だけを、必要な方向へだけ、必要な分量だ
け、必要な時間だけ入力しようとする。
水:そうか。逆に下手な人は、関係ない部位を動かし
たり、関係ない方向へ動かしたり、余分な分量の
筋入力をしたり、力を入れなくていい時にまで入
力しているわけですね。
寿:したがって、指導において「力を抜け」と言われ
るのは、必要でない「部位」「方向」「分量」
「時間」の筋入力をストップせよということじゃ。
水:すると動きがスムーズになるということですか。
寿:スムーズになるだけでなくパワーが出るんじゃ。
水:え? 力を抜いたのにパワーが出る? またわか
らなくなっちゃうじゃないですか〜。
寿:たとえば無駄な部位に力みがあった場合、本来入
力すべき部位の筋肉がうまく働けないということ
があるニャ。
水:おお、そうか。つまり、自分の身体が自分の動き
をブロックしてしまうんですね。
寿:そうじゃ。それはヨロイを着たまま動くのに似て、
たいへん無駄が多いんじゃよ。したがって、本来
持っているはずのパワーを発揮できニャい。
水:でも、どの筋肉を使って、どれを休ませるかなん
て、簡単にはわからないですよね。
寿:もちろんじゃ。それを正しく理解し、身につけて
いくのが「練習」であり「上達」ではニャいか。
最初からわかっていれば苦労せんわ。
水:こりゃ、ごもっともです。でも、なにか手がかり
がほしいですね。
寿:そこで吾輩のねこ気功では、「立つ」ことから練
習を始めるのじゃ。
水:どうして、立つことなんです?
寿:それがもっとも単純な運動だからじゃ。
水:立つのが運動?
寿:そうじゃよ。立つという動作は静止して見えるけ
れども、じつは地球の重力に逆らって姿勢を維持
するという重労働ニャんじゃ。
水:はあ。
寿:しかし一方で、直立しているだけという単純な運
動でもあるので、使うべきあるいは使ってはいけ
ない筋肉の観察にはもっともふさわしい動作であ
ると言えるニャ。
水:つまり、直立するのに必要な筋肉だけを最小限に
使いながら立つという練習をするわけですね。
寿:わかってきたようじゃニャ。
水:立つことの次はどうします?
寿:ニャんじゃ、気が早いのう。本当は立つことだけ
を何年も練習させたいところじゃが、まあよい、
それと並行して進めるトレーニングもある。それ
が呼吸じゃ。
水:いよ、待ってました。呼吸法ですね。
寿:呼吸についても、「立ち」と同様のことが言える。
つまり、呼吸するために必要最小限の筋力を使い、
それ以外の筋肉を使わないことが重要ニャんじゃ。
水:おお! それはたしかに「立つ」ことと比べると
複雑ですよね。なるほど、呼吸も奥が深いんだ。
寿:ところで、きみは息を「吸う」ことと「吐く」こ
とのどちらが難しいかニャ?
水:「吸い」ですかね。息をたっぷり吸うのって、な
かなかできませんよ。
寿:ニャはは。不正解じゃ。人間にとって「吐き」の
ほうが「吸い」よりもずっと難しいのじゃ。
水:へえ、そうなんですか!
寿:それは身体の構造として吐きにくいという解剖学
的理由と、ふだんあまり深く吐いていないという
習慣的な理由とがある。
水:それらの理由をうかがう前にお聞きしたいんです
けど、さっきの立ち方の練習と呼吸の練習をどう
つなげていったらいいんですか。
寿:よい質問じゃ。まず二つの立ち方で実験しみよう。
Aは「内くるぶしの間に体重を落とす」立ち方、
Bは「つま先に体重を乗せる」立ち方じゃ。それぞ
れの姿勢で、1分間ほど楽に呼吸してみるとよい。
水:はい。
(両方ともやってみる)
寿:どうじゃ?
水:Aのほうがぐっと楽ですね。いやあ、驚いた。立ち
方ひとつで呼吸がこんなに変わるなんて。
寿:Bは重力と身体との関係に無理がある立ち方ニャ
んじゃよ。だから全身でそれをカバーしながら
呼吸することになる。
水:目からウロコが落ちました。
寿:次回はもっと落ちるぞよ(笑)
(つづく)
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第5回【ヨゴヨゴから練習しよう】
水:前回は、人間にとって吸いよりも吐きのほうが難し
いと習いました。
寿:うむ。人間にはおもに吸うための筋肉として、外肋
間筋と横隔膜がある。しかし吐くため専用の筋肉と
いうのはニャいんじゃ。
水:え〜!? じゃあ、どうやって息を吐くんです?
寿:安静にしているときは、ふくらんだ肺が自然にもと
に戻ろうとする力によって息を吐くニャ。
水:じゃあ、一生懸命吐くときは?
寿:内肋間筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋な
どが使われる。しかしこれらは呼吸補助筋群と呼ば
れ、意識的に使おうとしなければ呼気動作には参加
しニャいんじゃよ。
水:前回、老師は吐くほうが難しい理由を二つあげられ
ましたよね。身体の構造として吐きにくいという解
剖学的理由と、ふだんあまり深く吐いていないとい
う習慣的な理由と。
寿:そうじゃニャ。すでに二つ目の理由も述べたような
ものじゃが、人間はふだん意識的呼気動作をしてい
ニャい。つまり深く吐いておらんのじゃ。
水:だから、先の呼吸補助筋群がうまく使えないわけで
すね?
寿:その通り。しかし、多くの人はそれがあたりまえの
状態になっているから、吐くことの難しさに気づき
にくい。むしろ「たくさん息を吸えない」と信じ込
んでおる。
水:吸うのは簡単なんですか?
寿:イエスともノーともいえるニャ。
水:また〜、いじわるなんだから...。
寿:ニャはは。たしかに吐きと比べれば吸いはやさしい
が、現代人の多くは吸いも浅くなっているので、深
く吸えニャいんじゃ。その意味では、吸いもまた難
しいといえるじゃろう。
水:ぼくたちは何から練習すればいいんですか?
寿:前回やったように、まず立ち方を改善すること。重
心の位置ひとつで全身の筋力バランスは大きく変わ
るのじゃ。
水:内くるぶしの間に体重を落とすだけで、ずいぶん呼
吸が楽になったのには驚きました。
寿:そのうえで、まず徹底的に「呼気」の練習をするこ
とじゃ。
水:吐きの練習ですね。
寿:まず呼吸を大きく二つの領域に分けて考える。ひと
つは「満息域」、もうひとつは「空息域」じゃ。
水:マンソクイキ、クウソクイキですか?
寿:思いっきり息を吸ってごらん。
水:はい。(ス〜〜...)
寿:もっと、もっと、吸って。肺が満杯になるまで。
水:...
寿:それくらいでいいじゃろう。仮にその状態を空気が
100%肺に入ったものと考える。では、次にその息
を全部吐いてみよう。
水:ぷはあ〜〜!
寿:もっと吐いて、もっと吐いて、肺が空になるまで。
水:んんんん...
寿:よし。それで肺が0%の状態と考えよう。実際には
まだまだ残気はあるが、主観的に吐き切ったと思え
るところまで吐いたらそこを0%とする。
水:はあ、はあ、はあ、はあ...。
寿:ニャはは、苦しかったかニャ?
水:ぜえ、ぜえ、...。
寿:ふつうの呼吸で、いまの「100%」から「0%」まで
を使い切っている人は、まずいない。
水:そりゃ、そうでしょう! こんなキツいことを日常
ではできないですよ。
寿:100%と0%のちょうど中間あたりを50%と考えたと
き、ふだんの呼吸はだいたいどのあたりでしておる
かニャ?
水:え〜と...
寿:もちろん個人差もあるし、場面によっても異なるの
で、だいたいで構わんぞよ。
水:60%から40%くらいですかね。
寿:まあ、主観的にはそんなもんじゃろうニャ。実際に
は、吸気で60%、呼気で50%くらいになることが多
い。つまり吸うほうの領域をおもに使い、吐くほう
の領域はあまり使わニャいんじゃよ。
水:へえ、そうなんですか。
寿:この「吸うほうの領域」のことを満息域、「吐くほ
うの領域」を空息域と、ねこ気功では呼ぶのじゃ。
水:肺の中に空気がたくさんあるのが満息域、少ないの
が空息域ですね。
寿:うむ。そして、今日の呼吸トレーニングは、まず空
息域から始める。
水:浅く吸って深く吐くということですか。
寿:その通り。最初は「ヨゴヨゴ」じゃ。
水:ヨゴヨゴ? なんですかそれは?
寿:肺の中の空気量を、40%になるまで吐き、50%にな
るまで吸う。ヨ(4)・ゴ(5)・ヨ(4)・ゴ(5)
とニャ。
水:なるほど、こりゃいいや。40と50の往復で、ヨ・
ゴ・ヨ・ゴね。
寿:やってごらん。
水:はい。(ヨゴヨゴに挑戦)
寿:なにか気づいたことはあるかニャ?
水:けっこう浅い呼吸ですね。なのにわりとストレスが
かかります。ふだんの呼吸で自分がいかに空息域を
使っていないかがわかりました。
寿:おお、ニャかニャか優秀なレポートじゃ。この練習
はいろんなバリエーションが考えられる。たとえば
ミゴミゴ(30%と50%の往復)、ニゴニゴ(20%と
50%の往復)のように、振幅を大きくしていく。
水:空息域での呼気に、より大きな負荷をかけるわけで
すね。
寿:もうひとつは、振幅そのものは変えないで、より深
い空息状態で呼吸する方法がある。ミヨミヨ(30%
と40%の往復)、ニミニミ(20%と30%の往復)な
どじゃニャ。
水:(それぞれやってみる)
寿:どうじゃ?
水:うわあ、それぞれに全然違った感覚ですね。呼吸法
って奥が深いなあ。
寿:管楽器奏者は特にじゃが、打楽器や弦楽器、あるい
は普通にねこ気功を学ぼうとする人にも、これらの
呼吸法は役に立つぞよ。
水:ふだん使わない空息域を活性化するわけですね。
寿:正確には、空息域で使われる筋肉群、神経群の活性
化じゃよ。また、内蔵のマッサージ効果もある。
水:たしかに、内蔵の血行が良くなる気がします。
寿:空息域をじゅうぶんに鍛えたら、次回は満息域に取
り組もう。
水:はい。
(つづく)
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第6回【吸気のトレーニング】
水:ふだんあまり使っていない空息域のトレーニングが
ヨゴヨゴでしたね。
寿:うむ、息を吐く練習じゃニャ。
水:ぼくたちの通常の呼吸は、おもに満息域ばかり使っ
ていて、空息域はあまり使っていないんですね。
寿:その通りじゃよ。それを「意識吸息ー自然呼息」と
呼んでもよい。
水:イシキキュウソク、シゼンコソクですか?
寿:意識的に吸おうとし、自然にまかせて吐くような呼
吸じゃ。したがって、使う領域はおのずと満息域と
いうことになるニャ。
水:つまり「吸いが主役の」呼吸ですね。
寿:一方、管楽器演奏や武術、舞踊、スポーツ、ヨーガ
や気功などで求められる呼吸法は、まったく逆のア
プローチをとる。
水:というと「意識呼息ー自然吸息」ですか?
寿:そうじゃ。意識的に吐こうとし、自然に吸うことで
空息域を使う。「吐きが主役の」呼吸じゃ。
水:たしか人体には吐くため専門の筋肉がないため、意
識的に呼気をコントロールするためには呼吸補助筋
群を総動員しなくてはならないんでしたよね。
寿:身体の構造からして、吐くことは難しいのじゃ。こ
こに古来よりたくさんの呼吸法、それも吐く息中心
の呼吸法が開発されてきた理由がある。
水:では、生まれたときからずっと呼吸しているのだか
ら、呼吸法を難しく考える必要はないという指導は
間違っているんですか?
寿:学習者をリラックスさせるための方便としては、そ
ういう指導もよかろう。しかし、論理的に考えるな
らその理屈は通らんじゃろうニャ。
水:ふだんとは違う呼吸を学ぶのが「呼吸法」だという
わけですね。
寿:まさに「正反対の」運動を学ぶといってよいじゃろ
うニャ。
水:前回は空息域での呼気を練習するために、「ヨゴヨ
ゴ」を、そしてそのバリエーションとして「ミゴミ
ゴ」「ニゴニゴ」「ミヨミヨ」「ニミニミ」などを
習いました。
寿:今回は満息域を使って吸気の練習をしようニャ。
水:はい。
寿:もう予想がついておるじゃろうが、最初にやるのは
ロゴロゴじゃ。
水:肺の中の空気量を、60%になるまで吸い、50%にな
るまで吐く。ロ(6)・ゴ(5)・ロ(6)・ゴ(5)
と往復するから、ロ・ゴ・ロ・ゴですね。
寿:やってごらん。
水:はい。(ロゴロゴに挑戦)
寿:どんな感じがするかニャ?
水:あまり違和感がないというか...
寿:ニャはは、そうじゃろう。それがふだんの呼吸に
近いからじゃよ。
水:あ、なるほど。いつもぼくたちはこんな感じで呼吸
してるんですね。
寿:50%〜60%の満息域で、吸気主導の浅い呼吸をする機
会が多いということじゃニャ。
水:ロゴロゴにもバリエーションがあるんですか?
寿:もちろんじゃ。まずは吸息側の振幅を大きくしてい
こう。ナゴナゴ(70%と50%の往復)をやってみる
とよいぞよ。
水:ナゴナゴですか、猫みたいですね。
寿:ねこ気功じゃからニャ。
水:おっと(笑)、こりゃまた失礼しました。
(ナゴナゴをやる)
寿:どうじゃ?
水:お医者さんで聴診器をあてられているときって、こ
んな感じかもしれません。
寿:ニャるほど。ではヤゴヤゴ(80%と50%の往復)を
やってごらん。
水:(やってみる)
寿:これはラジオ体操の深呼吸みたいじゃろ?
水:たしかに! そうか、ぼくたちは深呼吸しているつ
もりでも、実際には吸っているばかりであまり吐い
ていなかったんですね。
寿:もちろん、ラジオ体操のときはヤゴヤゴではなくて
ヤヨヤヨ(80%と40%の往復)くらいになっている場
合が多いじゃろう。でも、空息域を十分に使いこな
している人は少ないと思われるニャ。
水:たしかにそうでしょうね。
寿:次のバリエーションは、ナロナロ(70%と60%の往
復)じゃ。今度は振幅は小さいままキープする。
水:(ナロナロをやってみる)
寿:どうじゃ?
水:なんだか不思議な感じです。難しいわけではないけ
れど不自然というか。
寿:気持ちが落ち着くか、それとも高ぶるかニャ?
水:高ぶりますね。ヤル気が出てくる。
寿:吸息は交感神経に刺激を与えるので、満息域で意識
的な吸気を繰り返すと、身体が興奮状態に導かれや
すいのじゃ。
水:でも、なんだか息苦しい感じもします。
寿:そのあたりが呼吸のさじ加減じゃニャ。交感神経は
「闘争と逃走の神経(fight or flight)」などとも
呼ばれるように、激しい活動を行なうことに適した
身体を用意する。人体はある種の緊張状態に置かれ
るため筋肉は硬くなり、血圧も上がる。
水:それって、あんまりいい状態ではありませんよね。
寿:いちがいによくないとは言えないニャ。闘争したり
あるいは逃走したりするときには、そのような身体
が適している場面があるからじゃ。
水:でも、緊張し過ぎると自由に動けないし...
寿:そこで、武術でもスポーツでも「肩の力を抜け」と
か「リラックスせよ」という指導をするのじゃよ。
水:どうやって?
寿:息を吐くのじゃ。呼気は逆に副交感神経を刺激する
ので、興奮というアクセルに対して、ブレーキをか
けるような役目を果たす。
水:へえ、うまくできてますねえ。吸いと吐きのバラン
スで心身の状況をコントロールするわけですね。
寿:呼吸という身体運動の奥深さがわかるじゃろう?
では、残りのワークを片付けよう。ヤナヤナ(80%
と70%の往復)をやってごらん。
水:(やってみる)う〜、これ、けっこうキツいです
ね。息を思いっきり吐きたくなります。ぷはあ〜。
寿:さて、チェックしてみようか。ここまで順を追って
やってきたので、きみの身体はたっぷり息を吸える
状態になっておるはずじゃ。
水:(吸ってみる)おお、本当だ! おもしろいように
息が入る。
寿:次回は、どういう順序でどのようなトレーニングを
すればよいのか、実践的な方法について語ろう。
水:お願いします!
寿:もうひとつ、ロゴロゴの別の使い方についても説明
するぞよ。
水:楽しみです。ワクワクします!
(つづく)
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第7回【呼気と吸気のバランス】
水:老師、どうしてもわからないんですが。
寿:ニャんじゃ?
水:人間にとって、息を吐くほうが吸うよりも難しいん
でしたよね?
寿:そうじゃよ。
水:では、どうして吸うことのほうが難しいと感じる人
が多いんでしょう?
寿:ニャはは、よいところに気がついた。ただ、それを
説明するのは少し手間がかかるニャ。前回のやりと
りを思い出してみよう。ふだんの、つまり安静時の
呼吸の特徴を覚えておるかニャ?
水:え〜と、安静時はおもに満息域を使い、意識吸息ー
自然呼息となる。吸いが主役の呼吸です。
寿:よし。では、管楽器や武術の呼吸法は?
水:安静時とは逆に、おもに空息域を使い、意識呼息ー
自然吸息となる。吐きが主役の呼吸ですね。
寿:呼吸法をまったく練習していない人の場合、空息域
はあまり使われていニャい。ほとんどが満息域にお
いて浅い呼吸をしておる。
水:はあ。
寿:満息域においては意識吸息じゃったろう? つまり
吸うときに意識的努力をともない、吐くときはその
力を抜くだけで吐けるんじゃよ。
水:あ! なるほど!! つまり、満息域でしか呼吸し
ない人にとっては、吸うときは力が必要だからシン
ドイし、吐くときは力を抜くだけだからラクチンな
んですね!!!
寿:正解じゃ。吸うほうが難しいと感じている人は、空
息域での呼吸の経験が少ないのかもニャ。
水:空息域では吐くほうに意識的努力が必要で、その力
をゆるめれば息が自然に入ってくる、つまり吸いの
ほうが楽というわけか。
寿:多くの人が「吸い」ばかり練習したり、その練習を
他人に薦めたりするのは、満息域の吸気が努力感を
ともなうので、いかにも練習した気分になれるから
ということもあるじゃろうニャ。
水:おお、なんたること! そうだったのか!!
寿:しかし悲観することはニャいぞ。空息域で吐く練習
を始めれば、そのキツさや達成感に気付くはずじゃ
からニャ。思う存分、味わうとよいぞ。
水:わかりました。では、具体的にどういう順番で練習
すればよいのか教えてください。
寿:空息域での呼吸を体験するために、まずはヨゴヨゴ
を数回試してみよう。そして満息域の呼吸ロゴロゴ
と比較してみる。
水:その次はミゴミゴ、ニゴニゴですか? それともミ
ヨミヨ、ニミニミ?
寿:それらのバリエーションは、興味があればやったほ
うがいいが、ひとまずとばしても構わんぞ。
水:へ? じゃあ、ナゴナゴ、ヤゴヤゴ、ナロナロ、ヤ
ナヤナも、とばしていいんですか?
寿:うむ。それらは呼吸観察のための手段であって、日
常的なエクササイズではニャいんじゃ。
水:では、ヨゴヨゴとロゴロゴの比較をしたら、次はな
にをするんですか?
寿:1-2-3-2-1をやりニャさい。
水:1-2-3-2-1は吸気と呼気を両方向に伸ばしていく呼吸
法ですよね。吐くほうを専門に練習しなくていいん
ですか?
寿:よい質問じゃ。1-2-3-2-1をやるとき、満息域ばかり
使うことがないように注意するとよいぞよ。空息域
を開発するようなつもりでやるんじゃ。
水:というと、吸いよりも吐きに重点を置き、吸った量
よりも多めに吐けばいいんですね。
寿:1-2-3-2-1をやりながら、自分の肺の残気量がどの程
度かをたえず観察してみると勉強になるぞ。
水:そうそう1-2-3-2-1といえば、呼吸法ブログパーツ
ができたんですよね。
寿:うむ、1分間で手軽に1-2-3-2-1が練習できるスグレ
モノじゃ。日常生活にうまく呼吸法を取り入れても
らいたいものじゃ。
水:老師はつねづね「トレーニングはシステムが重要」
とおっしゃいますよね。
寿:いかにも。個々のエクササイズが何であるかより、
それが全体の中で「どのような役割を」果たしてい
るかのほうが重要じゃからニャ。
水:すると1-2-3-2-1は、ねこ気功システムの中心にあ
るということですか?
寿:現在のきみのレベルでいえば、そのように考えてよ
いじゃろう。中級者や上級者には違うアドバイスを
する可能性があるけれどもニャ。
水:なるほど。ありがとうございます。とすると、1-2-
3-2-1を中心に置き、ヨゴヨゴとロゴロゴをその周
辺に置くと考えてもいいですか。
寿:うむ、基本的にはそれでよい。1-2-3-2-1をたくさ
んやると、呼吸とはどのような現象であるかを身体
が理解し始める。こればかりは、頭でわかったつも
りになっても仕方がニャいんじゃ。ひたすら呼吸を
繰り返して身体でとらえるしかニャい。
水:はい。では、当分は1-2-3-2-1だけをやります。
寿:ところがニャ、そういう「単品メニュー」練習もま
た行き詰まるんじゃ。中心が何であるかがわかった
ら、適切なバランスでエクササイズを配置すること
も必要ニャんじゃよ。
水:なるほど〜。だからよい指導者のチェックを定期的
に受けることが大切なんですね。
寿:そういうことじゃニャ。吾輩のアイデアをきみがま
とめた「ひとりの五分間(ヒトゴ)」というトレー
ニングがあるじゃろ? あのような形でエクササイ
ズの流れを作るとよい。
水:ヒトゴはリードメッセージの音声ファイルがネット
上で公開されていますね。
寿:音声ファイルの中に登場する
「チャイルドタイム」
「ショルダリング」
「フィッシュスイム」
「ボトミング」などの専門用語は、リンクを参照
してもらうとよいぞよ。
水:これをやれば、5分間でかなり深いトレーニングが
できますよね。
寿:毎日5分間、できればそれを1日に複数回、3ヶ月ほ
ど続けてみると、呼吸法の基礎ができてくるニャ。
水:ここまでを整理しますね。毎日やるべきトレーニン
グは、ヒトゴ。その中の1-2-3-2-1をメインと考え
る。なるべく空息域を使うように意識し、吐く息に
重点を置いて行なうということでよろしいですか?
寿:必要に応じて、ヨゴヨゴやロゴロゴを混ぜるとよい
ぞよ。さらに1-2-3-2-1の精度を上げていきたい場
合は、空息域のミゴミゴ、ニゴニゴ、ミヨミヨ、ニ
ミニミなども加える。さらに満息域のナゴナゴ、ヤ
ゴヤゴ、ナロナロ、ヤナヤナもニャ。
水:それらは精度向上のための練習なんですね。
寿:うむ。
水:ところで老師、前回の終わりに「ロゴロゴの別の使
い方についても説明する」とおっしゃいましたよ
ね? あれはなんですか?
寿:うむ、「体内観察」じゃよ。ロゴロゴなどの呼吸観
察は、それを応用して体内観察のツールとして使う
ことができるんじゃ。次回はこの話題を掘り下げて
いこうかニャ。
水;はい、よろしくお願いします!
(つづく)
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第8回【呼吸法で体内観察】
水:ロゴロゴを体内観察のツールとして使うことを教え
てくださるんでしたよね?
寿:きみは自分の横隔膜を意識できるかニャ?
水:う〜ん、なんとなくなら。
寿:多くの人が、自分の体内を意識することに苦手意識
を持っておるようじゃニャ。
水:横隔膜って意識できるものなんですか?
寿:ニャはは。もちろんじゃよ。その第一歩がロゴロゴ
じゃ。まずロゴロゴを復習しておこうか。
水:肺の中の空気量を、60%になるまで吸い、50%にな
るまで吐く。ロ(6)・ゴ(5)・ロ(6)・ゴ(5)
と往復するから、ロ・ゴ・ロ・ゴでしたよね。
寿:よろしい。ところで、ヨーガに「死者のポーズ」と
いうのがあるのを知っておるか?
水:あおむけに寝転がって休息するやつでしょ。
寿:あれはただ休んでいるのではなく、身体の中を深く
観察しておるのじゃよ。あるポーズをとったことが
自分の身体にどのような影響を与えたか、それがど
のように回復していくか、それらを繊細に観察する
のじゃニャ。
水:へえ〜、ただの休みだと思ってました。
寿:考え方によっては、ヨーガは「死者のポーズ」こそ
が主役で、そのほかのポーズは死者のポーズへの前
座にすぎないともいえるニャ。
水:そうなんですか! こりゃ意外!!
寿:瞑想も同じ。自己観察が主目的であり、ただあるが
ままを見る修行と考えることができる。
水:うっひゃ〜! 目からウロコが落ちました。瞑想っ
て自己観察なんですか!
寿:では、体内観察によって何が得られると思う?
水:感覚が鋭くなるとか。
寿:お、いいぞ。身体の感度を上げるという効果は確実
にあるじゃろうニャ。
水:身体って感度がニブいんですか?
寿:現代人は外部からの情報のほとんどを視覚から得て
おる。そして次に聴覚情報に頼っておるニャ。
水:はあ...。
寿:逆に、味覚、嗅覚、触覚、さらには体内の感覚など
は、日常生活の中であまり使っておらん。これらの
「視聴覚以外の感覚」のことを体性感覚と呼ぶ。
水:それって、たとえば皮膚感覚とか内臓感覚のことで
すか?
寿:うむ。皮膚、筋肉、腱、関節、内臓壁などに含まれ
る感覚器から得られる情報のことじゃニャ。
水:たとえばどんなものですか?
寿:皮膚感覚には「触覚」「圧覚」「振動覚」「温覚」
「冷覚」「痛覚」などがある。内臓感覚には「伸展
覚」や「痛覚」、ほかにも深部感覚といって骨格筋
の長さや緊張、関節の角度などの感覚もあるぞ。
水:すると体内観察を練習することによってそれらの体
性感覚を磨き上げようということですか?
寿:磨き上げる以前に、まず体性感覚の存在に気付くこ
とじゃろうニャ。
水:なるほど、たしかにね。
寿:また、体性感覚は身体の外に向けても広げることが
できるのじゃ。
水:え〜! いくらなんでもそりゃないでしょ。
寿:ニャはは。信じられんかもしれんニャ。両方の手の
ひら同士を内側に向け、10cmくらい離して胸の前に
かざしてごらん。
水:(やってみる)こうですか?
寿:うむ。そして両手のひらの中心を意識のラインで結
ぶのじゃ。最初はイメージでかまわんが、やがて実
感が出てくるぞよ。
水:はあ、なるほど。気功のトレーニングって、こうい
うことの積み重ねですよね。
寿:そうじゃよ。気功ばかりではニャいぞ。たとえばす
ぐれたドライバーは、タイヤと道路の接面を体性感
覚で認識する。
水:あ、そういう話、聞いたことあります。運転席にい
ながら、まるで直接地面に触れているような感覚が
あるんだとか。
寿:体性感覚を磨くことで、感度向上はもちろん、その
規模を拡大し、構造も高度化できるのじゃ。気功は
その練習体系ニャんじゃよ。
水:体性感覚の規模とか構造ってなんですか?
寿:今やった「両手のひらを結ぶライン」のようなもの
じゃよ。実体のないものをあたかも実体があるかの
ように意識できるようになる。そしてそれを大きく
したり、複雑な構造にしたり、動かしたりする。こ
れは体性感覚を開発することで得られる能力じゃ。
水:すると、横隔膜を意識するというのは、横隔膜その
ものを感じるというよりは、体内の体性感覚を総動
員して周りから察知するということですかね。
寿:ほう、その通りじゃよ。ニャかニャかやるのう。
水:へへへ。いや、まあ...。
寿:動きを感じる運動感覚や重力を感じる平衡感覚など
も使いながら、横隔膜を「浮き彫りにして」感じ取
るわけじゃニャ。
水:考えてみると身体の芯(重心線)というのも実体は
ないわけで、それも体性感覚で描き出したものです
よね。
寿:いかにも。いわゆる「丹田」なども同じじゃニャ。
腹式呼吸を「ハラでする呼吸」という場合、この
「ハラ」は体性感覚情報で描き出したハラのことで
あって、実体としての腹部とは別のものじゃ。
水:そこを混同するから「腹に空気は入らない」という
議論が出てくるわけですね。
寿:当然、腹に空気は入らん。しかし体性感覚情報とし
ての「ハラ」に体性感覚情報としての「息」は入る
んじゃよ。
水:う〜ん、じつに高度な話ですね。
寿:そこでロゴロゴじゃ。やってみニャさい。
水:はい。(ロゴロゴをやる)
寿:まず、実体としての空気が鼻の穴から鼻腔へ出入り
するのを感じてみよう。
水:(鼻腔でロゴロゴをやる)
寿:つづいて空気が喉から気管に入るあたりを感じなが
らロゴロゴをやりニャさい。
水:(喉から気管でロゴロゴをやる)
寿:どうじゃ? 鼻から喉を経て気管に入るまでの気道
を感じることができたじゃろう?
水:すごいすごい! これ、おもしろいですよ。
寿:ここからさらに、気管、気管支、肺胞と体内観察を
進めていくのじゃが...
水:老師、わかりました! そのあたりになると感覚が
あいまいになってくるので、体性感覚をフルに使わ
ざるを得なくなるんですね。だから感度がアップす
るんだ!
寿:うむ。しかも、体内に入れば入るほど、実体として
の空気は体性感覚としての「息」へ、実体としての
気管は体性感覚としての「気道」へと置き換えられ
ていく。身体と心の境界領域に入っていくというわ
けじゃニャ。
水:観察は肺胞でおしまいですか?
寿:ニャはは。その気になれば、肺胞から毛細血管へ入
り、さらに血流に乗って全身の細胞を観察すること
もできるぞよ。
水:うわあ! そうなると、いよいよメディテーション
(瞑想)らしくなりますね。
寿:次回はそのあたりについて話そうかニャ。
(つづく)
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第9回【主客転倒してからがホンモノ】
寿:インターネットは便利なものじゃニャ。ブログパー
ツというのを知っておるかニャ?
水:ねこ気功のブログパーツもありますよね。
寿:うむ、パジャマで出かける呼吸旅行を1分間で体験で
きるようになっておる。
水:私のブログにも載せてあるので、毎定時になるとメ
ロディが流れて呼吸法レッスンが始まります。また
ちょっと気分転換したいときにも、「PLAY」を押せ
ば1分間で呼吸ブレイクがとれるので重宝してます。
寿:これと同じ仕掛けを、誰のブログにも簡単につける
ことができるのじゃろ?
水:はい、くわしくはこちらをご覧ください。
寿:で、じゃニャ。その1分間呼吸法を使って、今日はお
もしろい体験をしてみよう。
水:お、待ってました!
寿:まず、歌の指示に合わせて呼吸をしてごらん。
ひとつ吸う
ひとつ吐く
ふたつ吸う もうひとつ
ふたつ吐く もうひとつ
みっつ吸う もうふたつ もうひとつ
みっつ吐く もうふたつ もうひとつ
ふたつ吸う もうひとつ
ふたつ吐く もうひとつ
ひとつ吸う
ひとつ吐く
とろけつつ 呼吸旅行にとけこもう
吾輩が「1-2-3-2-1(ワンツースリーツーワン)」
と呼んでおる呼吸法じゃ。以前にもやったニャ。
水:これをやると、スーッと楽になるんですよね。2〜3
セットくり返すと、心身ともにシュワシュワ〜ッと
リフレッシュしますよ、ほんと。
寿:10分くらい時間が取れるときは、10セットを目安に
やってみるとよいぞよ。くれぐれも身体を固めない
ように気をつけてニャ。
水:はい。身体が「ほどける」ように、「とろける」よ
うにというのが呼吸法のコツですよね。
寿:うむ。今日はそこからさらに一歩先に進むぞ。
水:といいますと?
寿:「吸い」と「吐き」を逆転させるのじゃ。
水:え〜と、どういうことですか?
寿:「ひとつ吸う」というところでひとつ吐き、「ひと
つ吐く」というところでひとつ吸うのじゃよ。
水:なんだかアマノジャクですね。
寿:そのとき、ちょっとした意識操作をする。
水:どんな操作です?
寿:吸ったり吐いたりする主体がきみではなく「環境」
だと考えるんじゃニャ。
水:環境?
寿:大自然と言ってもいいし、宇宙でもいい。
水:宇宙が呼吸しているってことですか?
寿:そうじゃ。「ひとつ吸う」というメッセージを聞い
て宇宙が息を吸っている。それはきみから空気を吸
い出しているので、結果としてきみは息を吐くこと
になるわけじゃ。
水:ははあ、宇宙が吸うから私が吐くんですね。で、宇
宙が吐いた息が私に入るから、「ひとつ吐く」のと
ころで私が吸うと。
寿:そうじゃ。ちょっとやってごらん。
水:(PLAYを押して1分間やってみる)
寿:どうじゃニャ?
水:おおおおお! これはすごいですね。今までとまっ
たく違う感覚です。
寿:どんな風に違うかニャ?
水:自分がなにかをするという能動性が沈静化して、す
ごく大きな力に動かされている感じというか...。
寿:呼吸が「受動的な運動」になるのじゃニャ?
水:そうです、そうです!
寿:それまでは「私が」呼吸する感じだったのに対して
「宇宙が」呼吸するという感覚に変わるじゃろう?
水:はい。「呼吸する」というより「呼吸される」とい
う気持ちになりますね。
寿:「私という主体」と「呼吸という客体」が入れ代わ
るわけじゃニャ。これを主客転倒、もしくはSOシ
フトと呼んでおる。
水:えすおーしふと?
寿:Sはsubject(主体)、Oはobject(客体)の頭文
字じゃ。これらが入れ代わる、つまりシフトするの
で、SOシフトというわけじゃ。
水:主客が転倒すると、日常とはまったく違う世界を体
験しているように感じます。
寿:ニャはは、よいところに気がついた。気功は主客転
倒してからが本物ニャんじゃよ。「私が」やってい
るうちは、まあ、ただの体操じゃニャ。
水:そうだったんですか! じゃ、私のやってたのは気
功になってなかったんだ!!
寿:まあ、そう嘆くことはニャい。主客転倒にもいろん
なレベルがある。ごく浅い短時間のSOシフトは、
誰にでも起きておるのじゃ。安心しニャさい。
水:はあ...。
寿:SOシフトは呼吸だけでなく、あらゆる場面で起こ
りうるぞ。たとえば「ねこばしり」という練習があ
るじゃろ?
水:はい。頸椎、胸椎、腰椎の順で、背骨をゆったりと
前後にゆする動きですね。
寿:あれも最初のうちは「私が背骨を動かす」という意
識でやる。
水:はい、そうですね。
寿:ところがある時点からSOシフトが起きて、「背骨
が私を動かす」に転換するのじゃ。
水:(やってみる)
あ! なるほど〜!!
寿:ここからが本物のねこ気功ニャんじゃよ。
水:こりゃすごい!
寿:メディテーションも同じじゃ。たとえば目を閉じて
じっと座るとする。
水:はい。
寿:日常の意識では「私が座る」じゃが、SOシフトが
起きると「座」のほうが主体になる。
水:座が主体ってどういうことです?
寿:「私」がいなくなって、ただそこに「座」だけが残
るような感じになるのじゃよ。
水:うは〜、私はまだそこまではできませんが、老師、
それって「無我の境地」ってやつですか?
寿:うむ。無心とも言うニャ。
水:へえ、無我とか無心って、SOシフトのことだった
んですか!
寿:まあ、厳密に言うといろんな違いがあるかもしれん
が、「私」という意識が主体であるうちは、絶対に
無我にも無心にもなることはできん。
水:はあ。
寿:逆に、SOシフトを手がかりにすれば、無我や無心
へのアプローチはしやすいじゃろうニャ。
水:では、さっそく試してみます。
寿:ところで、この対談も今回が最終回らしいニャ。
水:はい。老師、短い時間でしたが、お世話になりまし
た。また別の機会に教えてください。
寿:うむ、練功にはげむように。ではまたニャ!
(おしまい)
【ねこ気功ソング 試聴】
ゆるされる海に
ねこ気功のメディテーション世界を歌として表現したも
のです。まずは内面観察をテーマにした「ゆるされる海
に」。心が傷ついたとき、疲れたときにどうぞ。
ゆるされる海に ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲:上新功祐
補作詞・歌:ユキイナバ
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宇宙ピアノ
心身の中心を貫く芯をテーマにした「宇宙ピアノ」。大
地とのつながり、大空とのつながりを確認できて、元気
があふれますよ。
宇宙ピアノ ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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カラフル
共感覚をテーマにした「カラフル」。聴覚や触覚に色を
感じる不思議な世界です。
カラフル ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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満月とつり橋
ねこ気功のメディテーション世界を歌として表現したも
のです。今月は気功の立ち方をテーマにした「満月とつ
り橋」。不安定で澄み切った世界が幻想的なラブソング
として表現されています。
満月とつり橋 ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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スイム
深い気功状態を描いた「スイム」。正解はない、終点も
ない、トラブルもない世界です。裏切りも独占もないラ
ブソングをお楽しみください♪
スイム ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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デジタルロマンス
ツイてる人はいつも機嫌がよく、景気のいい話ばかりし
ている。幸運は心の習慣で、運のよしあしは自分の心が
作っている。それをアバンギャルドな狂気のラブソング
にしてみました。上意識と下意識が入り乱れます。
デジタルロマンス ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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海辺のシャム
考えるな、感じろ! 人間の「意識」の限界に気づき、
私たちが潜在的に持っている力を解き放つ。勝とうとす
れば勝てず、勝利を忘れたときに能力が出る不思議を、
海岸通りのシャム猫くんが教えてくれました。
海辺のシャム ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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五感で好きになる
頭でとらえた情報でする恋ではなく、細胞のすみずみま
でしみわたるような愛の時間にひたる。これはまさに気
功の世界です。やさしさがにじみ出し、いとしさがから
みあう、コミカルでリリカルなラブソング。
五感で好きになる ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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雨に語りて
この世は自分の心を映す鏡。青い景色を見たければ自分
が青くなりなさいという言葉がありますけれども、世界
を輝かせるためには、まず自分を光らせればいいのだと
思います。闇をののしるのではなくてね。
雨に語りて ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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おひるねトロピカル
時間と空間と意識の関係を、夏のおひるねの景色の中で
歌ってみました。時間は主観的なもの。自分の意識次第
で速く流れたり、止まったりする。空間も同じですね。
おひるねトロピカル ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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乾杯
ビジネスとして成功することと芸術表現の深さとは別物。
アートに技術は必要か不要か。形式を守ることが芸術か
それとも打ち破ることか。それともそういう対立を超え
たところにアートは存在するのか...。
乾杯 ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ
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冥王星からありがとう
悩んでいるとき、落ち込んでいるとき、ひとつだけたし
かなことがあります。それは視点が「自分」からのもの
になっていること。自分がなければ悩みはない。だから
視点を冥王星に移せば、あらゆる悩みは消えるのかな。
冥王星からありがとう ※試聴できます♪
作詞:水行末
作曲・歌:ユキイナバ