ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


ビッグバンドの司会

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型にはまった司会進行

ステラジャムを見ていて、大学生ビッグバンドの司
会(MC)について気になったことがあります。どの
バンドも、ほぼ画一的な司会スタイルだということ
です。

たとえばソロイストを


 オン・トランペット坂本龍馬
 オン・ピアノフォルテ徳川慶喜


のように紹介する。しかもみんな「オン」にアクセ
ントを置いて発音する独特のフシ回しです。

大阪出身の舞台監督・野々村さんに尋ねてみると、
関西でも大学生はほぼ同じような状況だとか。

ステラジャムはジュニアの大会なので、彼らはおそ
らくほかのイベントやコンテストで、先輩たちの司
会を見て覚えたのだと思われます。

このスタイル自体は学生ビッグバンドの世界で自然
発生的に生まれた流行でしょうから、それはそれで
尊重します。しかしほかの可能性も考えてみてはど
うでしょうか。今日はそんな提案です。




多様な表現を研究しよう

せっかくジャズという自由な芸術に取り組んでいる
のですから、司会者も、いつもみんなが同じように
やるのではなく、もっとくふうを重ねて表現やスタ
イルにバリエーションがほしいですね。

ピアノを「ピアノフォルテ」と正式名称で呼ぶこと
を最初に思い付いた人はセンスがいいと思います。
それをシャレていると感じる人が多かったからこそ
たくさんの人にマネされたのでしょう。しかし連発
すると鼻につく場合があるので注意が必要です。

また英語として考えるなら、on trumpet の「on」
にアクセントを置くのはおかしいですね。前置詞は
むしろ小さく短く発音して「trumpet」のほうを強
調するべきでしょう。

定冠詞をつけて「on the trumpet」としたり、ドラ
ムの場合はその席に座っているニュアンスを強調し
て「at the drums」という表現もできます。

さらに日本語では「楽器名→人名」の順序ですけれ
ども、英語風に「坂本龍馬 on the trumpet」のよ
うな語順で言うこともできます。わざわざ楽器名を
言わずに、ソロイストの名前だけを紹介するのも一
案です。

こういう引き出しをたくさん用意して、いろんな表
現を混ぜながら自分のスタイルを少しずつ確立する
わけですね。

先人のライブ盤をいくつか聞き比べて、カウント・
ベイシーはどんな司会をしているか、トシコ・アキ
ヨシは、メイナード・ファーガソンは、ゴードン・
グッドウィンは...、などと研究してみるのもいいで
しょう。




エンタテイメントは個性の戦い

ショウビジネスとして見るなら、「正解」に近づく
ことよりも、自分なりの解釈やスタイルを模索する
ことに価値があると考えられます。

誰かのマネに終始するのではなく、誰のマネでもな
い世界を創造する。それが舞台で何かを演じるとき
に心がけたい重要なポイントのひとつです。

ゲストバンドの野口茜ステラジャム・オーケストラ
が、全曲オリジナル曲を演奏したのはその具体的実
践であり、ひとつのチャレンジでした。

もちろんジュニアバンドのように基礎を学ぶべき段
階では、先輩やプロの演奏をお手本としてひたすら
マネるのも重要なステップでしょう。

けれども「横一列右へならえ」ではつまらない。た
とえ初心者であっても、やはりつねに新しい表現を
探す努力を重ねたいものです。司会者も同じです。




失敗から学ぼう

ステラジャムに出演した某大学は、メンバーの一人
が演奏の前にバック宙を披露しました。場を盛り上
げるためのパフォーマンスですが、当然ながら賛否
両論があると思われます。

私の考えはこうです。

バック宙という演出自体が良いか悪いかは、審査員
や聴衆が判断すればよい。しかしこの種のリスキー
な、つまり「スベるかもしれないネタ」に対して果
敢にチャレンジする姿勢を、私は高く評価したいと
思います。

「正解」を求めて小さくまとまるよりも、ヒンシュ
クを買うかもしれないリスクを取る姿勢が貴いので
す。人間は、特に若者は、失敗しながら成長するも
のなのですから。

これまでの常識では考えられないから「やらない」
のではなく、今まで誰もやらなかったからこそ「や
る」という勇気を持つ。そういう独断的創造のこと
を「独創」と呼ぶのでしょう。

ステラジャムが、主催者、審査員、アーティスト、
出演バンドのすべてにとって、これからも活気に満
ちたクリエイティブな場であることを、このイベン
トの総合プロデューサーとして願っています。

黒坂洋介

※本稿はステラジャム2010の直後に書かれたものです。

投稿者 kurosaka : 2011年9月23日