ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


くり返し、くり返せ

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くり返し、くり返せ

スズキ・メソードは、音楽を通じて心豊かな人間を
育てることを目的とする教育法。ヴァイオリニスト
鈴木鎮一によって創始されました。鈴木の著書
「愛に生きる〜才能は生まれつきではない〜」
は、じつに内容の濃い迫力のある本でした。

1966年の初版から2007年12月3日には84刷という
超ロングセラーとなっているのもうなずけます。
40年以上前に書かれた本ですけれども、内容が
ちっとも古くないのです。

多くのばあい、一つの曲がひけるようになる
と、どんどんつぎの曲へ移ってしまいます。
そうして、あれもひき、これもひき、何曲し
あげたという。いちおうはなんでもひけるよ
うにはなるわけです。しかし、りっぱなのが
一つもない。

何年間か努力して、そういうことを続けてい
ると、救いようのない、平凡な演奏しかでき
なくなります。なんでもやれます、というだ
けで、じっさいには、不足したものをたくさ
ん残したままで終わっているのです。

音楽ばかりではない。なんでもそうです。つ
まり、りっぱになっていく原則は、身につけ
た力を、ぎりぎりの高さにまで築き上げてい
くことです。

わたしは、会得した一つの曲をうんと練習さ
せています。毎日三回ずつ、約三ヵ月間ひか
せるのです。しかも一方では、その曲の世界
最高の演奏をレコードで絶えず聴かせる。
もっとりっぱに、もっとりっぱに...と。

そうすると、やがて高さというものが生まれ
てきます。それはもはや技術ではない。精神
の領域です。

ヴァイオリンをひくあいだ、および、ひき終
わったあとの精神的な態度 ー これは音楽
における重大な時間的 'ま' の問題です。曲は
終わっても音楽は終わっていない。(中略)

お祈りのあとの、静かにひざまずく、あのた
いせつな時間と態度です。そこまでのぼらな
ければならない。しかし、一つの曲でそこま
でのぼりえたものの、技術・感覚・心の高さ
は、もはや、他のひとびとをはるかにしのい
で立っているのです。

なんという純粋さ、気高さ、静けさ、そして厳しさ
でしょう。

武道の世界に「残心(ざんしん)」という言葉があ
ります。技の後も気をゆるめないで相対し、相手の
次の攻撃を防御する心溝えのこと。

バッハが楽譜に記したフェルマータは、宗教的には
「空」であり、武道的には「残心」に通じる。音の
出ているときだけが音楽ではないと鈴木氏は教えて
いるのです。

氏の学んだ名古屋市立商業学校のモットーは

 一に人物、二に技量

だとか。この姿勢が音楽にも、教育にも、人生にも
徹底しているのですね。

読み終わったあとに勇気と清涼感が残る名著です。


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愛に生きる
才能は生まれつきではない
著:鈴木鎮一
https://amzn.to/3wvcWXt

著者紹介
1898年愛知県生まれ。1950年、才能教育研究所設立。
江藤俊哉、豊田耕児など多くの世界的バイオリニスト
を育てる。「才能は生れ付きではない。どの子も育て
方一つで立派に育つ。人は環境の子である」と主張。
スズキ・メソードと言われる彼の才能教育は、現在世
界45ヵ国に40万以上の生徒を抱えている。

鈴木は常日頃「音楽家を育てることが第一の目的では
ない。立派な人間を育てたいのです」と口にしていた。
子供の持っている美しい心、生命力、才能をそのまま
育ててあげたい。彼の教育理論の原点は、子供への愛
情と人間愛に溢れたものであった。



投稿者 kurosaka : 2014年2月13日