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学びは守破離

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ものごとを習得する段階を三つに分けたものとして
「守破離(しゅはり)」という言葉があります。出
展には諸説ありますが、江戸時代の茶匠・川上不白
が記した「不白筆記」ではないかと言われます。

守破離の解釈も人によってニュアンスの違いがあり
ますけれども、以下のような意味で使われることが
多いようです。



:基本。師の教えや型を学ぶ段階。

:応用。師の教えや型を深め広げる段階。

:創造。師の教えや型を離れる段階。



「守」については、多くの人がおおむね同じ解釈を
採用していますが、「破」や「離」は受け止め方が
さまざまです。師弟関係を堅固なものととらえるか、
比較的自由な関係と考えるかによって分かれるよう
です。



師弟関係が堅な解釈の例

:疑うことなく一心不乱に師匠の教えを守り、
  真似て、学び、身につける。

:師匠の技をさらに探求し、自己の悪癖を壊し
  ながら再構築する。

:師匠の教えを素直に実現できるよう完成する。
  型を意識することなく自由自在にふるまい、
  その人独自の技が創出される。




師弟関係が由な解釈の例

:師についてその流儀を習い、守り、励むこと。

:自分なりのくふうや他流も加えて、それまで
  に身につけた型を破ること。

:自己の研究を集大成し、師匠のもとを離れて
  独自の境地を開くこと。



後者の解釈は、弁証法でいう「正」「反」「合」に
近いイメージかもしれません。

実際、「不白筆記」にはこう書かれています。



弟子ニ教ルハ此守と申所計也。弟子守ヲ習盡し能成
候へバ自然と自身よりヤブル。これ上手の段なり、
さて、守るにても片輪、破るにても片輪、この二つ
を離れて名人なり、前の二つを合して離れてしかも
二つを守ること也。


つまり、師がAを教え、弟子がそれを破り(非A)、
Aと非Aの両者を合わせて、そのどちらでもないもの
Bを創造する。しかしBにはAと非Aの両方ともが息づ
いている、ということでしょうか。





大中小守破離

私(水行末)は、さらに踏み込んだ解釈を提案した
いと考えています。すなわち「大の守破離」「中の
守破離」「小の守破離」です。

大中小は時間の長さによって区分します。大の守破
離とは、数年から数十年の期間が対象になるもので
す。ある技術を身につける過程や、学習者の生涯に
わたる上達を視野に入れた長期のスパンです。

中の守破離は、数日から1〜2年程度の中期スパンを
対象とします。日々の練習によって生じる変化や上
達について考えるものです。

小の守破離は数秒から1〜2日程度の短期スパンが対
象となります。習うときの心身の状態や、練習前と
練習後の変化などについて考えます。

このように定義しておくと、先に紹介した一般的な
守破離の解釈は、いずれの場合もおもに「大の守破
離」について語っており、中期、短期の視点が欠落
していることに気づかれるでしょう。

じつは守破離は長期だけでなく、中期や短期におい
てもくり返し生ずるフラクタル(自己相似)構造を
しているのではないかと考えられます。




小の守破離と何か

では具体的に、数秒で生じる小の守破離とはどのよ
うなものなのか。師匠から技を習ったその場で、は
たして破や離が起こりうるものなのでしょうか。

たとえば以下のような解釈ができます。習った型を
「そのまま形だけ」真似るのが守です。しかしそれ
では死んだ稽古になってしまう。

稽古の内容を生きたものにするためには、習った型
を「自分のものとして」消化する必要があります。
それが「小の破」です。

分野や流派によって呼び方は異なるでしょうが、た
とえば「気を入れて稽古する」のような表現は、形
だけを漫然と反復してもダメだよ、つまり「守」だ
けでなく一瞬一瞬「破」を意識しなさいよ、という
意味になるでしょう。

「小の離」は、与えられた型(A)に自分なりのく
ふう(非A)を統合し、自分の技(B)として吸収す
ることだと言えます。

このような「小の守破離」をひたすらくり返し、そ
のプロセス全体が、「中の守」となっていきます。
それを積み重ねることで、やがて大きな「破」が訪
れる。それが「中の破」です。

やがて「中の離」が訪れ、それらの「中の守破離」
をいくつもくり返すことが「大の守」となる。そし
て「大の破」「大の離」へと拡大していきます。




指導者の能力を

上達の過程を、「小の守破離」→「中の守破離」→
「大の守破離」という構造でとらえるなら、学びは
よりダイナミック(動的)で生き生きとしたものと
なるでしょう。

学ぶ側だけでなく指導する側も、師弟関係が固定的
で絶対的なものだという前提に立つのではなく、学
習者が「大中小の守破離」におけるどの段階で課題
を抱えているかという視点を持つことで、適切かつ
タイムリーな助言を与えられるはずです。

指導者の能力はこのような評価軸で測ることができ
ると考えるのですがいかがでしょうか。

投稿者 kurosaka : 2019年2月22日