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JJazz Large Ensemble LIVE(めぐろパーシモンホール)

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めぐろパーシモンホールで「JJazz Large Ensemble LIVE」を聞いた。たいへん興味深い、充実したコンサートだった。他ではなかなか聞けない演奏だろう。

出演は2団体。最初に登場したのは「林正樹 Large Ensemble」だった。

<林正樹 Large Ensembleメンバー>
林正樹(piano)
神田智子(voice)
マレー飛鳥(violin)
地行美穂(violin)
志賀恵子(viola)
島津由美(cello)
相川瞳(vibraphone,percussion)
小林武文(percussion)
織原良次(fretless-bass)

ピアノトリオに弦楽四重奏、ビブラフォン、ボイスを加えた9人編成と考えればわかりやすいか。ほぼ全曲が林正樹のオリジナル曲。美しいメロディと複雑なリズムが組み合わされ、幻想童話を読むような楽しさである。珍しい玩具がいっぱいのおもちゃ箱と言えるか。

演奏を聞きながら、ふとヨーヨー・マのシルクロード・アンサンブルを思い出した。次に浮かんできたのはチック・コリア『THE MAD HATTER』、そしてキング・クリムゾン『太陽と戦慄』だった。どれも曲調はあまり似てないが、弦楽器の響きとボイスから連想したのかもしれない。

想像力が刺激され、脳細胞がクリーニングされるような音世界。私はこういう音楽を待っていたんだよな、と気付かされた。

後半に登場したのは「スガダイロー Large Ensemble」。

<スガダイロー Large Ensembleメンバー>
スガダイロー(piano)
石田幹雄(piano)
鈴木郁(drums)
秋元修(drums)
細井徳太郎(guitar)
市野元彦(guitar)
千葉広樹(bass)
東保光(bass)
松丸契(sax) 
田中邦和(sax)
斉藤栄治(dance)
荒悠平(dance)

ご覧の通り、すべてのパートがダブルキャストの12名編成である。「クインテット2団体に2人のダンサーが加わった」と表現することもできる。

前半が幻想童話の世界なら、こちらは不条理劇が演じられる芝居小屋だ。そこにいるのがミュージシャンというより劇団員のように見えるのは、舞台上を縦横に動き回る2名のダンサーゆえか。彼らはそれぞれ片方の足を相手につながれている。ちょうど二人三脚をする格好だ。ユーモラスに、アクロバティックに、そしてランダムに舞い続ける。

演奏は、2つのフリージャズ楽団が「カオスの言語」で会話するとでも表現できよう。音、音、また音が、エネルギッシュにとめどなく溢れ出す。その音の洪水に身を浸していると、村上隆の『五百羅漢図展』を思い出した。あちらは色、色、また色という色彩の洪水だったけれども。

2つのユニットが、ダンサーとたちと同様に「二人三脚」で演奏を繰り広げる。収束しそうでいつまでも収束しない混沌。けれどけっして崩壊もしない。秩序と無秩序の狭間を漂うような呪術的時空が流れ続けるのだ。

言うまでもなく「Large Ensemble」はジャンル名ではなく、楽団のサイズを表現した語である。ここで出会った2つのLarge Ensembleは、楽器編成も音楽的指向も全く異なる。しかし両楽団を「Large Ensemble」の一語でくくることによって、なんと豊かな音楽祭が生まれたことか。

このコンサートは、インターネット放送局JJazz.netが「ARTS for the future!」という文化庁事業として開催したものだ。商業主義的な香りはなく、思う存分アートを楽しめる企画だった。客席の年齢層は比較的高めに見えたが、こういう良質なイベントへ若い世代もたくさん招待できるといい。いずれにしても、文化庁とJJazz.netの文化的社会貢献に厚く感謝を評したい。

投稿者 kurosaka : 2021年11月19日