リッチー・コールの思い出
2020年5月2日(現地時間)、アルトサックス奏者リッチー・コールが旅立った。リッチーとは1992年夏、1996年夏、そして2005年秋の合計3回、一緒に日本ツアーをしている。
特に印象深いのは、リッチーと2人で各地を回った2005年のツアーだ。当時のツアーレポートから引用しながら振り返りたい。
天才と旅する喜び
リッチーは、存命する数少ない天才型のアーティストだと思います。楽器のうまい人はたくさんいるのですが、キャラクターとか人生そのものがジャズというタイプは少ない。
リッチーが天才だなあと感じるのは、彼が音楽以外のことはまったく無頓着なところにあります。演奏中は驚異的な集中力とあふれんばかりのサービス精神で光り輝くけれども、日常生活はまったく逆の人格ともいえます。音楽が「動」なら日常は「静」。
乗り物で移動したり、そのために時間を調整したり、食事したり、お金を払ったりという「ふつうの生活」が、おそらくリッチーには無味乾燥なものと感じられるのでしょう。
豪快で細かいことは気にしない性格に見えますが、リッチーは決して粗野な人ではありません。むしろ繊細で、優しくて、上品で、頭の回転が速い、気配りの人です。
一方、クレジットカードを鞄のどこに入れたかわからなくなったり、急に姿を消してどこかを歩き回っていたり、道に迷ったり、感情のコントロールが乱れたりと、子供のような行動が多く見られます。これも天才によくあることですよね。
このようなタイプのアーティストが見られなくなった昨今、リッチーのような天才と身近に接しながら、一緒に旅できる喜びをかみしめています。
リーダーにはカリスマが必要だ
ユーモラスでおチャメなリッチーだが、ひとたびバラードを奏でれば純朴な愛の世界が広がり、口を開いて音楽について語れば命がけの芸術探求者の雰囲気が漂う。
道化師であり、語り部であり、そして超絶技巧のサックス奏者でもある。野性と知性が同居するチャーミングなキャラクター。それがリッチー・コールなのだ。
あるときバンドリーダーについて、リッチーはこう言った。
「リーダーには charisma が必要なんだ」。
charisma(カリズマ)とは人を引き付ける個性。聖霊から与えられた特殊能力。人びとを心服させる強い魅力、カリスマ性のことだ。
岡本太郎は「芸術は呪術である」と言ったが、リッチーもまた、ある種の宗教性について語ったのである。
理屈抜きで信頼させる不思議なパワー。それがカリスマだろう。実際、あるアマチュア・ビッグバンドにリッチーがゲストとして加わったときのようすを、私は以下のように記録している。
超過密状態の店内に、バンドの勢いあるサウンドとリッチーの美しい音色が響き渡ります。「リッチーが加わることでバンドのサウンドががらりと変わった」 と関係者もおっしゃるように、圧倒的な存在感でバンドをぐいぐい引っ張る。
ジャズです。これがきっとジャズなんです。状況に対する機敏なレスポンス。聴衆の心へ直接語りかけるような演奏。先にクリニックでリッチーが言った 「ソロとはストーリーを語ることだ」 という台詞そのままに、まるで対話を楽しむようなギグでした。
さて、カリスマは天与の能力か、それとも後天的な努力で身につけることができるものなのか。 それについてずっと考え続けているのである。
Richie, don't rest in peace. Just keep swingin' !
投稿者 kurosaka : 2020年5月 3日