百連問の基本技
●問う教室~質問するだけで世界はどれくらい変わるだろうか?〜
著:黒坂洋介
https://amzn.to/48PgIcu
【インデクス】
百連問の基本技まとめ
第31問:質問にはどんな種類があるか?
第32問:ニュースリポーターは準備をするか?
第33問:地図と旅の違いは何か?
第34問:地図目の質問はどう作る?
第35問:旅肌とは何か?
第36問:問うのは意見か事実か?
第37問:なぜ徹底的にネガティブでいいのか?
第38問:ポジモンは何を問うか?
第39問:事実を問うとは?
第40問:正解はないのか?
第41問:情報を整理するにはどう問うか?
第42問:ショーロンポーとは何か?
第43問:論拠を問うとは?
第44問:結論はどのように問うか?
第45問:シミュレーションをどう問うか?
第46問:時間の流れを問うとは?
第47問:お利口さんはなぜ否定されるか?
第48問:変化はどのように起きているか?
第49問:大量の愚問は賢問を生むか?
第50問:どうやって百連問を続けるか?
百連問の基本技まとめ
1.開問と閉問(自由回答か選択回答か)
2.ニュースリポーター(5W1H)
3.地図目と旅肌(全体俯瞰と現場体験)
4.三賢獣(ネガモン、ポジモン、クールモン)
5.テイゼンキョウソウ(定義、前提、共通点、相違点)
6.ショーロンポー(証拠、論拠、結論)
7.モシモン(初日と最終日、短時間と長期間)
8.フールモン(大量の愚問)
※モシモンとフールモンは三賢獣と行動を別にする「はぐれモンスター」
9.オウム返し(単純疑問化)
10.芋づる(連想型と飛躍型)
第31問:質問にはどんな種類があるか?
ここからは具体的な質問作りのテクニックをご紹介します。またモーリー先生、花ちゃん、いたずら猫ヤップに登場してもらいましょう。
モーリー先生(モ)
冷静で理性的、論理的、現実主義的で、話をわかりやすくまとめてくれます。
花ちゃん(花)
想像力豊かな女の子。躍動感にあふれ、柔軟な発想で話を広げてくれます。
いたずら猫ヤップ(ヤ)
ときどき話に割り込んでは混ぜっ返すやんちゃな子猫です。
* * *
花:モーリー先生、おはようございます。
モ:やあ、おはよう、花ちゃん。
花:毎日、百連問に取り組んでいるんですけど、上手に質問を作るコツってあるんですか?
モ:なるほど、質問のテクニックを磨こうというわけだね。質問づくりを研究している人はたくさんいるよ。いわゆる「基本技」のようなものもあるしね。
花:それを知っておくと、楽に質問が作れるかしら?
モ:楽になるかどうかはわからないけど、使ってみる価値はあるだろうね。少し教えてあげようか?
花:お願いします!
モ:もっとも基本となるのは、開問と閉問だろうね。
花:カイモン、ヘイモン?
モ:開問とは、「いまの気持ちはどうですか?」みたいな質問さ。
花:回答者が自由に答えていいスタイルね。
モ:うん。そして閉問とは、イエスかノーかで答えるような質問。「あなたはきのう駅へ行きましたか?」のような。
花:なるほど...三択とか四択はどうなるの?
モ:それも閉問だよ。「あなたの考えはどれですか? 次の3つから選んでください」のように問うんだね。
花:テレビ番組のインタビューって、開問が多くないかしら?
モ:花ちゃん、おもしろいところに気付いたね。たしかにインタビュアーは、質問というより、相手の発言をうながしたり、合いの手を入れるような感じの問いを投げかけることがあるね。
花:イエスかノーか迫ると、こわい感じがするからかしら?
モ:そうだね。閉問はときとして相手を追い詰めてしまう。なごやかなムードにしたいときは開問のほうが使い勝手がいいんだろう。
ヤ:インタビュアーが準備してないだけなんじゃニャいか?
花:あら、ヤップ、おはよう。
モ:ははは、ヤップは手厳しいね。たしかに「金メダルをとった感想はいかがですか?」のような質問は、何の準備もいらない。
花:きちんと準備して、だけど相手を追い詰めないためには、どんな質問を用意すればいいのかしら?
第32問:ニュースリポーターは準備をするか?
モ:以前に「5W1H」を試したことがあったよね?
花:時間とか、場所とか、人とか、いろんな切り口で質問するやつですよね?
モ:ジャーナリストはこの5W1Hを盛り込んで記事を書くので、それらを質問として頭の中に用意してから取材にのぞむ。だからこのテクニックを「ニュースリポーター」と名付けようかな。
花:あら、かっこいい。
ヤ:うさんくさいニャ!
モ:ヤップ、いいじゃないか(笑) こういう遊び心も大切だよ。ニュースリポーターという基本技は、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)という6つの切り口から質問を用意するのさ。
花:金メダルをとったスポーツ選手にインタビューするつもりで、ちょっとやってみるわね。
●この競技はいつ頃から始めたんですか?
●トレーニングは自宅から近いところでやってるんですか?
●ライバルとして誰を意識してますか?
●どんな食事をされているか、メニューを教えていただけますか?
●どうして決勝の場面で、ああいう作戦をとったんですか?
...ん〜、あんまりうまくないけど、こんな感じかしら。
モ:いや、花ちゃん、とてもいいよ。「金メダルの感想はいかがですか?」より、ぐっと内容の深いインタビューになってる。百連問を毎日やっているなら、そうやって質問をどんどん広げていけばいいんだよ。
第33問:地図と旅の違いは何か?
花:でもね、その「広げ方」がよくわからないんですよ。
モ:では「ニュースリポーター」とは別の基本技を伝授しよう。その名も「地図目・旅肌」というものだよ。
花:チズメ、タビハダ???
ヤ:変な名前だニャ!
モ:まずは地図目から説明しよう。一般的な言葉で言えば俯瞰(ふかん)が近いかな。鳥が地上を見下ろすような視点だね。
花:問うことは「視点」決めるんだったわね。第8問で習ったわ。つまり鳥の視点で質問を作ればいいってことね。でも、それがなぜ「地図目」という名前なの?
モ:地図というものは、鳥の目で描かれた地形図だよね?
花:あ、つまり地図を見るようなつもりで質問を考えるってことね。おもしろ〜い!
ヤ:ふん、別におもしろくないニャ。
花:ヤップ、考えてごらんなさいよ。この町内の地図を作って、どこにどんな友達がいるとか、どこでどんな食べ物が手に入るとか記録しておけば、町歩きの作戦を立てるとき便利だと思わない?
ヤ:この町なら毎日パトロールしてるから、地図なんかいらないニャ。
花:じゃあ、知らない町へ行くときのことを考えてみたら?
ヤ:ん? 知らない町?
モ:ヤップ、花ちゃん、たとえば鎌倉まで電車で行くことを考えてみようか? 花ちゃんは鎌倉駅へ着いた。さあ、これからどこへ行こうかな?
花:まず地図を広げて、どこに何があるかを確認するわ。大仏さんも見たいし、新江ノ島水族館へも行きたい。あ、でも、小町通りで食べ歩きもしたいわ。逗子の海もいいわね。それから...
ヤ:そんなに回れないニャ!
モ:ははは、花ちゃんは欲張りだね。でも、それらをどういう順番で、どんなふうに訪ねていくかプランを立てるときに地図は役立つだろ?
第34問:地図目の質問はどう作る?
花:本当だわ! 鎌倉駅に着く時間は何時か? 江ノ電で大仏さんの最寄り駅までどれくらいか? 水族館までどうやって行くか? 小町通りの食事は昼と夜とどちらがいいか? 本当に逗子まで足を伸ばせるか?
モ:いいね、そうやって旅のルートが決まっていく。同じように、こんがらがった話を整理して地図のようなチャートを作れば、頭が整理されると思わないかな?
花:それを質問作りでやるのね? なにかテーマを出してもらっていいですか?
モ:たとえば江戸時代の終わり頃、黒船が来て、日本は鎖国を続けるか開国するかで意見が大きく分かれていたよね。
ヤ:なんだか、大げさな話になってきたニャ!
モ:だけど「鎖国か開国か」以外にも、たくさんの問題がからみあっていた。それを「地図目質問」で解きほぐし、幕末マップを作ってみたらどうなる?
花:わあ、おもしろそう! 歴史は大好きよ。
●鎖国か、開国か?
●江戸幕府存続か、討幕か?
●外国人排斥か、国際交易か?
●朝廷中心か、武士中心か?
●藩か、国家か?
●時間をかけるか、一気に進むか?
●武力制圧か、大政奉還か?
●秩序か、自由か?
●権威か、平等か?
●忠孝か、博愛か?
モ:おや、花ちゃん、ずいぶん難しい言葉を並べたねえ(笑)
ヤ:さっぱり、わからんニャ!
花:こういう大きな枠組みで質問を考える技が「地図目」ってことでしょ?
第35問:旅肌とは何か?
モ:地図は全体像を見るには適しているけど、現場の細かい情報がすべて切り捨てられている。だから実際に旅をしてみないと、その場所がどんなところかわからないよね。
花:たしかに、地図はただの記号だわ。
モ:花ちゃん、いいことを言ったね。あとで「記号」についてはくわしく話すことになるよ。でも、今は旅の話を続けよう。地図目で全体のようすをつかんだら、実際にそこを歩いて肌で感じる。これが「旅肌」さ。
花:五感で確かめるってこと?
モ:うん。触覚の「肌」に代表してもらったけど、実際は視覚、聴覚、嗅覚、味覚なんかも総動員して情報を味わうんだ。そういう観点から問うのが「旅肌質問」となる。
花:幕末テーマで、またやってみるわね。「鎖国か、開国か?」をもっと細く考えてみようかしら?
●鎖国はいつ始まったか?
●誰が始めたか?
●どうして始めたのか?
●どんな政策だったのか?
●鎖国中、外国の情報はまったく入らなかったのか?
●鎖国のメリットは何か?
●それは誰にとってのメリットか?
●鎖国のデメリットは何か?
●メリットとデメリットは江戸時代を通じて変化があったか?
きゃあ、おもしろいわ! いくらでも詳しく探求していけちゃう。
ヤ:ったく、歴史オタクだニャ!
モ:鎖国と政治、鎖国と経済、鎖国と文化、鎖国と教育、鎖国と食事など、テーマは無数にあるよね。そういうふうにどんどんミクロな視点へ進んでいくのが「旅肌」なんだよ。
第36問:問うのは意見か事実か?
モ:さて、花ちゃん。私たちは、よく意見と事実を混同して考えてしまう。「そんなことは許せない」と腹を立てているときは、自分の意見にすぎないものを、いつのまにか事実のように思いこんでしまいがちだ。
ヤ:そんな面倒なこと、考えてらんないぜ。ふぁあ〜、おれはもう寝るニャ。ZZZ...
花:あら、ヤップったら、寝ちゃったし...。で、モーリー先生、個人的な意見と客観的な事実とを分けて考えるのにも、質問が使えるんじゃないかしら?
モ:そうなんだよ。百連問の基本技に「三賢獣」というのがある。これを使って、思考をいろんな角度から分析できるんだ。
花:サンケンジュウって、変わった名前だわ。
モ:三匹の賢明なモンスターたちに活躍してもらうのさ。名前は、ネガモン、ポジモン、クールモンというんだけどね。
花:わあ、かわいい!
モ:ひとつずつ説明しよう。まず、ネガティブな視点から質問をするネガモンを考えよう。
花:ネガティブ質問で「ネガモン」ね。
モ:ネガモンは100%個人的な「意見」で構わない。喜怒哀楽むき出しの感情的な質問でもいいし、偏った思想に基づく質問でもOK。あるいは、とことん暗くて、反社会的で、攻撃的で、否定的な考え方をベースとした質問も、ここでは許される。
花:どうしてそんなことを許すの?
第37問:なぜ徹底的にネガティブでいいのか?
モ:百連問では、とにかくたくさんの質問をすることが大切。だからストレスがたまらない形で、まずは思ったことを全部吐き出してしまうのさ。質問がどんなにアブノーマルでも、それを誰かに見せるわけじゃないから、遠慮しないで好きなことを尋ねればいいのさ。
花:わたしがこんな絶世の美女で超人的な天才なのに、なぜみんなわからないの、みたいなハチャメチャな質問でもいいの?(笑)
モ:もちろんさ。いや、これは冗談じゃないよ。その質問が「ハチャメチャ」かどうかはここでは争わないとして(笑)、ネガモンではどんなに現実離れした内容でも、ウソの情報でも、すべてを認める。ただ質問文になってさえいれば、それでいいんだ。
花:なにかルールみたいなものはないんですか?
モ:ひとつだけ、それは自分の質問がネガモンであると自覚していること。自分はこれからネガティブな考えをするんだということがわかっていれば、それをコントロールして違う方向に進むこともできるからね。
花:でも、ネガモンって、ただの悪者じゃないの?
モ:ところがそうじゃないんだよ。建設的批判というものもある。どこに問題があるかを明らかにするときには、こういう否定的視点が生きる場合があるしね。
花:なるほど。皮肉屋のヤップの言葉が、ときどき思いがけないヒントをくれたりするのもそれかしら(笑)
モ:まったくだね。おやおや、ヤップは平和そうに眠ってるね。
第38問:ポジモンは何を問うか?
モ:さて、次はポジモンだ。これもネガモン同様、100%個人的な「意見」で構わないよ。ただし、できればここは感情を抑えるのが望ましい。楽しい、嬉しい、ハッピーなどの明るい感情も、いったんカッコにくくろう。
花:じゃあ、ポジモンでは何を問えばいいの?
モ:ものごとを徹底的に肯定的、楽天的にとらえる。屁理屈でもなんでもいい。とにかく無理矢理にでも長所を探してほめてみるといいよ。そして「どうしてこれはこんなに素晴らしいんだ」という観点から質問を重ねるのさ。
花:おせじ、おべんちゃら、ヨイショをすればいいのね。
モ:また、夢物語を思い描くのもいい。荒唐無稽な、実現不可能に思えるようなアイデアもどんどん出すのさ。それができない理由とか、あるいはできる理由とか、そんなものは一切考えない。ただ、こうだったらいいのに、こうしてみたい、と想像力をフル活用したドリーマーになる。そういう観点から質問するのがポジモンだよ。
花:幕末でやってみようかしら。
●260年続いた幕藩体制は役割を終え新しい仕組みが必要なのか?
●失業した日本中の武士にどんな新しい仕事を与えられるか?
●開国した日本はどこに学べばいいのか?
●アジアを支配しようとする列強に対する日本の強みは何か?
●新しい時代の新しいリーダーに求められるのはどんな能力か?
...うーん、我ながら想像力が乏しいですねえ。
モ:花ちゃん天下国家を語る、ってところだね(笑) もっと身近なテーマのほうが夢を描きやすいんじゃないかな? 「今日はどんないいことがあるだろう?」みたいな。
花:そうね、そういう視点でどんどんポジモンを使ってみますね。
第39問:事実を問うとは?
モ:三匹目の賢獣はクールモン。これは意見を極力排して、可能な限り「事実」だけを問うテクニックだよ。
花:意見はたくさんあるけど、事実はひとつよね?
モ:厳密にはそうとも言えないけれど、ここでは「事実はひとつ」という前提で質問を作っていくことにしよう。つまり「事実」と「意見」とをきちんと区別する練習さ。
花:事実と意見を区別しないとどうなるの?
モ:いろんなリスクにさらされるだろうね。たとえば
●軽々しくデマを信用する
●特定集団の価値観だけに偏向する
●自分だけが正義という独善に陥る
●まわりの意見に迎合する
みたいな。
花:でも、事実と意見を分けるのって、そんなに簡単じゃない気がするわ。事実を正確に事実と評価できるか、あんまり自信ないし。
モ:たしかにそうだね。だからこそ質問が役に立つんだよ。事実であるかどうかを確認するオーソドックスな手法に「裏を取る」というものがあるよ。
花:ドラマで刑事さんとか新聞記者さんがやってるやつでしょ?
モ:うん。警察やジャーナリストには必須の手続きだね。
第40問:正解はないのか?
モ:裏を取ることにも、百連問は力を発揮するよ。「AはBである」という主張があって、その裏取りをするには何を問えばいいかな?
花:Aとは何か? Bとは何か? AはBであると言っている人は誰か? その人はいつ、どんな場面でそれを言ったか? その人およびその周囲の人たちはどんな利害関係を持っているか? それから...
モ:すごい、すごい、花ちゃん、うまくなったねえ。さすが毎日、百連問を続けているだけのことはあるよ。
花:モーリー先生、事実と言っても、それを見る角度によっていろんな事実があるんじゃないかしら? たとえば円錐は横から見れば三角形だけど、上から見ると円になるし。
モ:そうだね。そんなふうに視点を移動するのに、質問はぴったりの手法なんだ。円錐を上から見るのは「地図目」だよね?
花:で、円錐を手にとってあれこれ触ってみるのが「旅肌」ね!
モ:事実認定というのは慎重にやらなくてはいけない。だから、「正解はない」と考えることが大切なんだよ。あらゆることが「間違い」である、あるいは「一時的な解決策」であると想定しておいたほうがいい。
花:「私だけが正しい」という思い込みを避けるためね。
モ:そうやって独善を回避するために、事実、事実、事実と、ひたすら事実だけを探求するのがクールモンというわけさ。
第41問:情報を整理するにはどう問うか?
モ:会議などで、たくさんの人がいろんな事実を紹介し、意見を述べる。するとたくさんの情報が出るわけだね。すると頭がゴチャゴチャしてくるよね。
花:ほんと、話を整理してよ、って気持ちになります。
モ:そういうときに使える質問テクニックがあるんだよ。クールモンの仲間でもあるけど「テイゼンキョウソウ」という。
花:わあ、それ、教えてください!
モ:まず「定義は何か?」だね。使っている言葉の定義を統一しておかないと、いつまでも話はかみあわない。幕末の例を使うなら、一口に「開国」と言っても、みんな違うものをイメージしているかもしれないよね。
花:なるほど。なにをどうしたら「開国」したことになるのか、人によって違う定義ってこともあるわ!
モ:さらに高度な問い方として「前提は何か?」があるよ。「開国すべし」ということでは一致していても、幕藩体制を残す前提か、それとも王政復古する前提かで、話の展開はまったく違ったものになるだろうしね。
花:そうやっていくつかの切り口で、いろんな人の意見の共通点とか相違点を整理すると、なにが問題なのか整理できそう。
モ:勘がいいね、花ちゃん。そうだよ、定義と前提を問い、共通点と相違点を問う。
花:あ、その頭文字が「テイゼンキョウソウ」ね!
モ:そうだよ。テイゼンキョウソウを問ううちに、切り口がいくつも出てくるだろうから、それらのうちどれを重視するか、どれを切り捨てるかなどを問うことも必要になるよ。
花:どういう手順で考えたらいいのかしら?
モ:ここらへんで、論理の基本を学んでおくのもいいだろうね。
第42問:ショーロンポーとは何か?
モ:花ちゃん、三段論法という言葉を聞いたことがあるかな?
花:聞いたことはあるけど、よく知らないわ。
モ:本格的に勉強するとなるとたいへんだけど、簡単に言うと「証拠」と「論拠」に基づいて「結論」を主張するという論理スタイルのことだよ。たとえば
証拠:花ちゃんは人間である。
論拠:人間はすべて考える。
結論:ゆえに花ちゃんは考える。
みたいな感じだね。証拠の「証」と論拠の「論」をとって、私は証論法(ショーロンポー)というニックネームをつけてるのさ。
花:あはは、中華料理みたい。
モ:ショーロンポーを覚えておくと、誰かが何かを主張しているとき、それに対して「証拠」「論拠」そして「結論」という3つの角度から質問することができるんだ。
花:おもしろそう。教えて、モーリー先生!
モ:さっきの「ゆえに花ちゃんは考える」という主張について分析してみようか。まず「証拠」について問うなら、「花ちゃんは本当に人間か?」となる。
花:もちろん人間よ!
モ:そうだね。だけど、そこから人間の「定義」を問うとか、花ちゃんとは誰かを特定したり、どんどん細かな質問を作ることができるね。もっと複雑なケースの場合、この証拠にあたる部分はしっかり「裏取り」をする必要があるので、たくさんのクールモンを用意しなくてはいけないんだよ。
花:わあ、いままで習ったことが次々と役立つのね。
第43問:論拠を問うとは?
モ:もっともおもしろいのが「論拠」を問うというアプローチさ。「人間はすべて考える」という論拠は、思わず「本当か?」と突っ込みたくなるよね。
ヤ:猫だって考えるニャ!
花:あら、ヤップ、いつのまに起きたの?
ヤ:ショーロンポーの話が出たあたりかニャ。
モ:ははは、ヤップはお腹がすいてきたかな。晩御飯はもう少し待ってなさい。
花:たしかにすべての人間が思慮深いわけではないだろうし、そもそも「考える」ってどういうことかしら?
モ:ほら、考えるという行為の「定義」を問わなくてはならないね。そもそも「人間はすべて考える」という表現は、どういう状況を「前提」としているんだろう。
花:なにもかも、あいまいだわ。
モ:ここで仮に「花ちゃんは人間である」が真だとしても、「人間はすべて考える」という論拠がグラついたなら、結論「ゆえに花ちゃんは考える」の信憑性は下がってしまうよね。
花:「証拠」と「論拠」の両方がしっかりしていないと「結論」があやしくなるのね。
モ:逆に言うと「論拠」をしっかりしておくと議論に強くなれる。だから百連問で自問自答を繰り返して論拠を磨き上げると、優秀な論者になる可能性が開けるんだ。
第44問:結論はどのように問うか?
花:結論「ゆえに花ちゃんは考える」については、どのように問えばいいの?
モ:いちばん投げやりな問い方は、「それがどうした?」だね。
花:え、なに、それ?
モ:花ちゃんが考えようが考えまいが関係ないよ、と「考えること」そのものの意義を問うのさ。ほかにも「ニュースリポーター」のテクニックを使って問うことができるよ。花ちゃんはいつでも考えるのか? どこで考えるのか? なぜ考えるのか? 何を考えるのか? どのように考えるのか? ...などなど。
ヤ:下手の考え休むに似たりだニャ!
モ:ヤップ、いいことを言ったぞ。花ちゃんの考えは、ほかの人の考えとどう違うか? どんな点が優れているか、劣っているか、あるいはユニークか? あるいは、休むに似たりなのか?
花:私の考えがユニークで価値があれば、「それがどうした?」という問いに対して有効な反撃ができるってわけね。
モ:そうだね。誰かが何かを主張したとき、それをショーロンポーという観点で分析して、「証拠」「論拠」そして「結論」そのものについて、百連問の中で問いかける練習をしてごらん。花ちゃんは、どんどん鋭い論客になっていくよ。
第45問:シミュレーションをどう問うか?
モ:質問の基本技にはシミュレーション系の問い方もあるよ。私はこれを「モシモン」と呼んでいる。「もしも〜だったらどうだろうか?」という問い方だね。
花:モシモンって...(笑) 三賢獣の仲間じゃないの?
モ:彼らとは行動を別にしている「はぐれモンスター」さ(笑) たとえば「もしも今日が人生最後の日だったら、私はこれをするだろうか?」と問うとどうなるかな?
花:わ、今日することを真剣に選ばなくちゃ。逆に「もしも学校生活最初の日だったら、今日一日をどうすごすか?」みたいに問うこともできるわね。
モ:あと、日常とは違うタイム感覚で問うというモシモンもあるよ。秒単位のごく短い時間で見るとか、ある状況を「静止画」として見るみたいな視点だね。スローモーションでもいいし。
花:「もしも私の1秒を、レオナルド・ダ・ビンチの1秒と比べたら、何が違うのか?」とかおもしろそう。
モ:そうだね。極端に短い時間の中で比較したとき、人間の思考や行動、あるいは能力はどんな違いがあるのか。これを考えると興味深いね。
花:ダビンチより優れた人間でいることも、1秒とか0.5秒ならできそうな気がするわ!
モ:なるほど、それはユニークな発想だね。
第46問:時間の流れを問うとは?
モ:それに対して、日常時間よりもずっと長い時間軸で現象を分析することもできる。これもシミュレーションのひとつだね。モシモンを投げかけてみるといいよ。
花:「もしも鎖国中もずっと諸外国との情報交換をしていた藩があったら」とか考えるとワクワクするわ。
モ:ひとつの仮定をさまざまに展開してみるのは、未来予測という意味でも興味深いよね。だからどんな切り口で、どれくらいの時間幅で、何をモシモンするかによって、いろんなシミュレーションができるだろう。
花:プライベートな計画にも使えますね。「今週をどう過ごすか?」を考えるとするでしょ。こんな本を読んだらこう、こんなイベントに参加したらこう、といろんな仮説を描いてみるの。
モ:いい着眼だね。そして花ちゃんの「人生」という長期スケールで考えるなら、無数に枝分かれした人生を概観することになるね。つまり、そういう大きな視点から百連問を続ける人になってゆくのさ。
花:モシモンって、奥が深いわ。
ヤ:おれは、今日のごはんのことだけ考えてたいけどニャ!
モ:そうだね(笑) 花ちゃん、ヤップのごはんを用意してくれるかな?
花:ガッテンよ。ヤップ、おいで!
第47問:お利口さんはなぜ否定されるか?
花:モーリー先生、ヤップはおいしそうに食事中ですよ。
モ:ありがとう、花ちゃん。ある意味、猫のライフスタイルは我々のお手本でもあるよね。「今ここ」にフォーカスして懸命に生きているんだから。
花:本当ですね。財産への執着もなく、きのうを悔やまず、明日を怖れず、ただイキイキと生きる。聖者の風格さえ感じるわ。
モ:アップル創業者のスティーブ・ジョブズが、スタンフォード大学で行なったスピーチで「Stay hungry, stay foolish」と語ったのを知っているかい?
花:何かで読んだことがあるわ。腹ペコであれ、愚かであれ、という意味かしら?
モ:逆を考えればわかるよね。満腹になった人は、もうそこからドラマが生まれない。満足してしまったら何も求めないからね。
花:でも、賢いことはいいんじゃないの?
モ:そこだよ。自分は何でも知っていると思っている人は、もう学ぼうとしない。そして「正しさ」はつねに道を誤る危険をはらんでいるんだ。
花:どうしてかしら?
モ:あらゆるものが変化しているからさ。
第48問:変化はどのように起きているか?
モ:地球は自転しながら太陽の回りを公転し、太陽系自体が銀河系の中を動き、我々の天の川銀河もまた移動している。
花:私たちはみんな宇宙空間を移動し続けているということね。
モ:銀河系は秒速約600kmの速度で移動しているという説があるよ。仮にこの数字が正しいなら、我々は1日に5184万km移動していて、1年で189億km動くことになる。
花:数字が大きすぎてイメージがわかないわ。
モ:地球から冥王星までの4.5倍の距離を毎年移動していることになるらしいね。
花:え〜!
モ:ミクロレベルでも激しく変化しているよ。心臓は脈打ち、血液は体内を流れ、呼吸も続く。だから細胞は一瞬も同じ状態にはないし、分子や原子のレベルで見てもつねに揺れ動いているからね。
花:仏教でいう「諸行無常」って、そういうことなのかしら?
モ:ははは、難しい話を持ち出したね。無常というと、物事が静かに移りゆく物寂しさを思い浮かべるけど、天体の猛スピードや原子の運動などを考えれば、そこにはきわめて高速で躍動的な無常観があらわれるというわけか。
花:だからお利口さんは、あっというまにお馬鹿さんになっちゃうのね!
第49問:大量の愚問は賢問を生むか?
モ:それゆえに、自分の知っている「正しさ」が一時的で仮定的なものであると知ること、つまり自分が「本当は何も知らない」と知ることが大事なのさ。
花:それが「Stay foolosh」ね。自分の愚かさを認めなさいってことか...。
モ:そもそも「問う」のは「わからない」からだよね? つまり自分が愚かであることを認めない限り「問おう」という欲が湧かないのさ。満腹した人がもう食べたくないようにね。
花:でも、やっぱり上手に質問したいわ。お馬鹿な質問じゃなくて。
モ:はっはっは、それが人情ってもんだろう。だけどね、花ちゃん。大量の愚問を発することから優れた質問、それを「適問」「賢問」あるいは「秀問」と呼ぼうか、そういうものが生まれるんだよ。
花:問い続けるために Stay foolish が大切というわけね。
モ:この世が変化していないなら、すでにあるものを守り続けるだけでいい。それなら問う必要もないわけだ。でも、先に見たように、この世界はマクロにもミクロにも激しく変化している。これまで「常識」と思われたことが、あっという間に役に立たなくなるんだよ。
花:その行き詰まりを破るために、質問を重ねるんでしょ?
モ:愚問のことを、私は「フールモン」と呼んでいるよ。
花:あ、三賢獣の「クールモン」と対になってる!
モ:その通り。だけどフールモンもまた「はぐれモンスター」さ。フールモンは「デキの悪い質問」という意味ではないよ。世の中の人が当たり前だと思っていることに疑問を投げかけると、そのときは愚問に見えるものなんだ。でも、そういうフールモンを重ねることで新しい局面が開けるのさ。
第50問:どうやって百連問を続けるか?
モ:あと2つだけ、簡単に紹介しておくね。ひとつは「オウム返し」、もうひとつは「芋づる」という技術だよ。
花:ツバメ返しっていう剣術の技があったわ(笑)
モ:オウム返しは、文字どおり相手の言ったことをそのまま疑問文にするだけさ。相手がいない場合は、目についた文章でもいい。「明日は雨でしょう」という天気予報なら、「明日は雨なのか?」みたいにね。
花:それなら簡単だわ。質問に行き詰まったら使おうっと。
モ:オウム返しは会話のときに役立つよ。相手が「こう思う」と主張したとき、「そのように思われるのですか」と軽く問い返す。「もう少しくわしく聞かせてください」と発言を促してもいいしね。
花:会話の潤滑剤としての質問というわけね。
モ:「芋づる」もそのまんまさ。次から次へと質問を続けること。芋づるには、連想型と飛躍型があるよ。関連する質問を重ねるのが連想型、無関係な話題に発想を遊ばせるのが飛躍型さ。
花:質問の内容が深くなりそうだわ。ありがとう、モーリー先生!
モ:これらの基本テクニックを使えば、花ちゃんの百連問もぐっと広がりが出て来るね。
●問う教室~質問するだけで世界はどれくらい変わるだろうか?〜
著:黒坂洋介
https://amzn.to/48PgIcu