虚呼吸を使う
まずは閉吸開呼
ここで閉吸開呼をやってみよう。まずはゼロスリー。ヘイキュウで仙節へ意識を吸い集め、カイコで仙節から全身へ吐き広げる。慣れてきたら「まわりの風景と仙節」の間で意識を開閉し、やがて「天地球と仙節」で開閉、と徐々にスケールを大きくしていく。
このときもわずかに微細なキメラダンスをかけておくといい。背骨が動くというより、天地芯そのものがキメラダンスを舞うとイメージすればいいだろう。壮大にして繊細なキメラダンスを楽しもう。
歩く呼吸で身につけた影添いの閉吸開呼は、立位でも使える。むしろ立位のほうが簡単に感じられるはずだ。ひたすら呼吸の出入りを観察し、息が入るとき「ヘイキュウ」、出るときには「カイコ」とつぶやく。呼吸を操作するのではなく、ただ観察するのはここでも同じだ。
先にも述べた通り、立位は歩位よりも集中力が高い。また静止状態のため心拍数も少ない。だから影添いでなく、呼吸操作をすることもできる。そこで閉吸開呼のバリエーションとして、意主息従も試してみよう。
といっても複雑な呼吸法をする必要はない。これまでは自然呼吸をただ観察していたのだが、それを少しだけ伸ばしてみるのだ。ゆったりと吸いながら「ヘイキュウ」、のんびり吐きながら「カイコ」を心で唱える。けっして無理に呼吸を伸ばさない。あくまでも気持ちよさを感じる範囲で長く深い呼吸を心がける。
自分でも驚くほど長い呼吸になる場合がある。たとえばヘイキュウで長〜く吸っている。もうそろそろ苦しくなるなと思うところで折り返し、カイコとつぶやきつつ吐いていく。これはこれで素晴らしい呼吸法だと思う。
虚呼吸を使う
このとき虚呼吸を使うと、さらにハイレベルな呼吸体験を得られる。虚呼吸は実呼吸に対する概念だ。実際に空気が入ったり出たりするのが実呼吸、空気の出入りはないけれども身体が吸うあるいは吐く態勢のときを虚呼吸と呼ぶ。
たとえば息を吸いきった状態で、喉を開けたまま一瞬空気の動きを止めてみよう。そのとき、身体は吸気の運動を続けている。そうでなければ空気が勝手に出ていってしまうはずだ。この「吸っているのに空気が入って来ない」状態を虚吸気と呼ぶのだ。
吐く場合も同様である。息を吐ききった状態で、喉を開けたまま一瞬空気の動きを止める。身体は吐く運動を続けているが、空気は出ていない。これが虚呼気である。吸いきった状態でも吐ききった状態でも、喉を開けて空気の動きを止める時間を長くしていくと、いっそう虚呼吸がよく理解できるはずだ。
虚実分立から継息へ
それをさらに進めると、「吸っているのに空気が出る」「吐いているのに空気が入る」という逆転状態も体験できる。少しやってみよう。ヘイキュウと唱えながら仙節へ向かって閉じながら吸っていく。そして意識では「閉吸」を続けながら、身体では空気を出していくのだ。つまり虚吸気で実呼気という状態になる。これを虚実分立と呼ぶ。
けっして簡単なテクニックではないので、取り組む場合は時間をかけて自己観察していただきたい。虚実分立ができるようになると、吸気も呼気も(理論的には)無限に伸ばしていくことができる。どうしてそんなことが起きるのか。
たとえば2分間息を吸うとしよう。ふつうは2分も吸い続けることはできないだろう。しかし途中に虚吸気をはさむ。つまり意識は2分間吸い続けている、実際には途中で息をつぐのだ。「もう吸えない」という限界が来たら、少しだけ息をもらして、そこからまた吸い始める。一瞬の実呼気を入れるが、意識は吸い続けているわけだ。
このテクニックを継息(けいそく)と呼ぶ。これを使えば5分でも10分でも吸い続けることができる。吐くのも同様だ。さあこれから30分吐こうということも、やる気になればできる。ようするに身体の呼吸と、意識の呼吸を別々に操作するのである。
虚実分立はじつに奥深い技術である。本来は身体運動と意識運動を別々に操作するためのものだが、ここではこれ以上深入りしない。ひとまず立位の閉吸開呼をゆったり行なうことに使ってみていただきたい。
※参考書籍:
『呼吸法を毎日2時間するようになって見つけたこと』より