ワールド・プロジェクト・ジャパン  〜 合奏音楽のための国際教育プロダクション 〜


みなし上ばき方式

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スリッパと国際交流


音楽を通じた国際交流の仕事を30年以上続けてきました。日本の学校バンドとアメリカやオーストラリアの高校生バンド(吹奏楽やジャズ)との交流を多く手がけています。

そこでいつも話題になるのが「上ばき」です。来日するグループに対して事前に靴を脱ぐ習慣について説明し、上ばきという文化を紹介してきました。しかしいくら説明しても、どうしても議論がすれ違うのです。

たとえば「新しい靴を1足買って持ってきてほしい。それは学校内でだけ使う。外を歩くときは使わない」と依頼したことがあります。すると「そういう靴はこちらでは売ってないんだ」と回答が来るのです。

いやいや、普通の靴でいいんだ。室内で使う専用の靴を用意すればいいんだと言っても、どうしても理解してもらえないのが不思議です。

日本のスリッパは海外の生徒には小さすぎることが多く、そもそも足が入らないことが多いです。だから自分専用の上ばきシューズを持ってきてほしいのですが、うまく話が伝わらなくてもどかしい限りです。

またスリッパで歩くことは、日本人は当たり前に行なえますけれども、慣れていない人はかなり歩きにくいようです。転倒の危険も考慮する必要があります。


土足と素足とソックスと


なぜこんなすれ違いが起きるのか考えてみたところ、どうも「土足」「素足」そして「ソックス」の清潔感が違うのではないかと思うに至りました。

日本人の感覚では、汚いからきれいを順番に並べると、おそらく「土足→ソックス→素足」となるでしょう。しかし彼らには「素足」は汚いもの、という感覚があるようです。

たとえば新品のカーペットを買ったとき、「カーペットが汚れるから素足で歩くな」と言うのを聞いたことがあります。人間の足の裏の皮脂を嫌うようです。また「カーペットは靴で何度も踏むことで価値が高まる」という話も聞きます。となると、汚い順序は日本と違って、「素足→土足→ソックス」なのかもしれません。

日本の教室や体育館をソックスで歩くことは、日本人はあまり好まないでしょう。スリッパをはかないと落ち着かないはずです。しかし外国人はスリッパよりソックスで歩くほうを好むように思えます。実際、多くの外国人生徒がソックス姿で演奏しているのを目にしてきました。


みなし上ばき方式というアイデア


文化の違いや感覚のズレは仕方のないことですが、なんとか日本人も外国人も快適に過ごせる方法はないものかと考えてきました。あくまでひとつのアイデアではありますが、いくつかの学校からご提案いただいた方法がうまく機能したので、情報共有させていただきます。

それは「みなし上ばき方式」と呼べるものです。つまり日本の学校へ到着したら、玄関や入口において雑巾で靴底をきれいにぬぐい、それで土足が上ばきになったと「みなす」わけです。あとは靴のまま校内を自由に動けることになります。

これは複数の学校の先生からご提案があったものです。それらの学校では生徒はみんな上ばきをはいていますが、校外からの来客についてはスリッパへのはき替えを求めず、入口で靴をクリーンにすることをルール化したのです。

もちろんすべての学校でこの方式が機能するとは限りませんけれども、スリッパ歩きの危険性や、ソックス歩きの不快さ(本人よりも見ている我々が不安定な気分になる)を考えると、土足を拭いたり洗ってきれいにしてから校内へ入ることに合理性を感じます。

この方式が優れているのは、日本文化へのリスペクトを残しつつ、海外文化をスムーズに持ち込める点にあるでしょう。また学校側も、人数分のスリッパと靴袋を用意するより手配が簡便となるメリットがあります。

しかし「みなし上履き方式」が最終解答ではないでしょう。より快適な国際交流事業のために、もっといいアイデアがあればぜひ教えていただければ幸いです。

ワールド・プロジェクト・ジャパン 黒坂洋介

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投稿者 kurosaka : 2024年10月10日